単騎で2度目の記念V
「単騎で気楽ではあったけど、全然勝てるイメージが湧いてこなかった」
同県の神山拓弥らを連れて先行した初日特選では、太田竜馬のまくりにシンガリに沈められた。二次予選、準決では主導権さえかなわなかった。意外にも単騎では好成績を収めているが、最終バックを取ることなく決勝まで進んだ眞杉匠がこう振り返るのも無理はなかった。
「連日の感じが最悪だった。先行しにいっても出切れないし、先行してもバックも取れない。どうしようもなかった」
5月のダービーに照準を合わせて、練習量をおよそ半分にまで減らした。そのダービーでは2年連続での優出となったが、その後の反動が尾を引いた。
「練習量を徐々に元に戻して、それと暑さが重なってオーバーワークになった。でも、いま(の脚力)を維持したいわけじゃない。やっぱり目指すところはそこ(G1優勝)ですから」
ただ、“最悪”のなかにも光はあった。自分の土俵に持ち込めなくても、決勝に進めるだけの地力はつけていた。
「いつも負けるパターンでも、ギリギリで勝ち上がれてた。自分の得意パターンにもっていけないと大きな着を取るんですけど。武田(豊樹)さんにも相談したら、最初からまくりに構えているわけじゃなく仕掛けているからいいんじゃないって言ってもらえた」
スローペースから打鐘の3コーナー過ぎで、中団外併走の高久保雄介が仕掛けて主導権を奪う。中近ラインを追った眞杉は、スペースができた3番手に反応しかけたが、そのまま最終2コーナー手前からまくり上げる。抜群のスピードで高久保をとらえて、眞杉が先頭で直線を迎える。切り替え猛追する志智俊夫をゴール前で横に振る芸当も見せてタイヤ差の勝利。ラインの援護がないなかで、2度目のG3制覇を遂げた。
「1回(3番手に)入ろうかと思ったけど、(スピードを)殺さずにそのまま行きました。結構、掛かってたかなと思うし、連日に比べると一番良かったです」
S級に上がってすぐは足踏み状態が続いたが、決してスタイルを変えることなく地道に努力を重ねた。正規でのG1デビューは昨年5月のダービーと大舞台での経験は多くないが、すでに2度のG1ファイナルに進んでいる。8月のオールスターでは、ファン投票でオリオン賞にも選ばれ、東日本を代表する先行選手にまで成長した。
「(2回目のG3優勝は)自信になりますね。オールスターでもオリオン賞に乗れるんで、そこも決勝を目指して頑張りたい。そこに向けて仕上げたいですね」
いまや先行では脇本雄太に次ぐ存在。その脇本を超えるためにも、眞杉が現状に満足することはない。
松浦悠士を叩いて高久保が先行策。その上を眞杉が最終バック手前でまくり切ると、志智俊夫が切り替える。直線では眞杉をタイヤ差まで追い詰めた。
「高久保君が絶妙なタイミングでカマしていった。松浦君がスピードを合わせて3番手に入って、一瞬落ち着いた。でも、横を見たらもう眞杉君がいた。強かったですね。それでも自分もあそこまで追い込めたんで、これくらいの感じを維持していきたい。優勝できたら最高だったけど、いいレースができたかなと」
中団から先に切って出た松浦悠士が、ペースを握る。高久保の仕掛けに合わせて踏んで飛び付くが、眞杉のスピードに対応ができず3着が精いっぱい。
「自分も駆けるつもりで踏んだけど、(高久保に)下りを使ってこられたんでキツかった。志智さんのところかと思ったけど、高久保さんの加速がすごかったし、そのあとは眞杉君もかなり掛かってて強かった」