いよいよ日本競輪学校第65回生の入学式です。保育園、小学校、中学校と散々親を困らせてきました。家計が苦しくても私立高校に進学させてくれて、ピストレーサーにロードレーサーと何一つ不自由なく高校生活と部活動を支えてくれた両親を競輪学校へ連れて行く事が出来て、少し親孝行が出来たようで嬉しかった事を思い出します。
　俺の勝負は既に始まっていました。「絶対に誰にも負けねえ！」と意気込み、同期の一人一人を睨みつける様にしかめっ面を決めていました。入学式はピリッと張り詰める雰囲気、井上純校長先生から祝辞を頂き、夢だった競輪学校生活が始まりました。俺はＢ組１班で担任は中村先生。10ヶ月間生活を共にする同部屋は東京都の乙川高徳君と福岡県の古賀裕司君と俺の３人でした。３人が同い年で、乙川君も古賀君もよく話しかけてくれたので、人見知りの俺もすぐに溶け込めました。しかも乙川君は高校時代に俺の事を気にしていたらしく、フレームや部品や乗り方など細かい所まで覚えていて、俺の調子が落ちたり、悩んでいる時は「あの時はこんな感じだった」とか「後閑の良い所はここだよ」などと的確にアドバイスをしてくれたのです。そして古賀君は小柄だが男らしい九州男児。俺が古賀君に興味を持ったのは、体が凄く小さく、一つ一つの発想や基本動作が俺とはまるで違う点でした。実に無駄がなく合理的。自転車に乗れば同じ様なパフォーマンスを発揮する時もあり、俺がこの発想と動きが出来たら！と彼に興味深々でした。