第55回 無名の吉岡稔真選手を意識 2019年3月12日
先輩期64回生に怯えながらの学校生活でも癒されるひとときがありました。それは彼女との電話の時間です。厳しい日課ながら電話できる時間帯がありました。公衆電話がいくつも並んでいて、生徒が引っ切り無しに電話をしています。週ごとに電話当番がいて、家族や友人、外部からかかってきた電話を受けると保留し、放送で呼び出すのです。64回生と65回生が一緒に学校生活を送っていましたので、先輩期の64回生がよく電話当番をしていたように思います。「57番・後閑生徒、1番にお電話です」と放送され、放送を受けた生徒は電話に向かうシステムです。たまに64回生の怖い先輩が生意気と思う65回生に対し「○○生徒チェック!」とか「○○番チェック!」と脅しの放送をしました。だいたい同じ人が呼び出されるので笑いを堪えていました。
電話はかかってくるだけではなく、こちらから家族や友人にテレホンカードでかけられました。俺は毎日毎日、彼女に電話をかけました。するとある日、俺と同じ技能免除で入学した京都府・山本真矢選手が、隣のブースでブツブツ文句を言っている声が聞こえたのです。耳を澄ますと、「福岡の吉岡!」とか「負けない!」とか言っていました。隣で彼女と電話しながら、真矢の負けず嫌いとプライドの高さに感心していました。真矢は千mTTの全国チャンピオン。俺はスプリントの全国チャンピオン。この頃から福岡県でろくに部活もせず帰宅部だった家具屋の息子、吉岡稔真という無名の選手を意識するようになったのです。