史上初のグランプリスラムで全7冠制覇
脇本雄太
すでに直線半ばでは、優勝を確信できるゴールだっただろう。1コーナーを入る前に脇本雄太が、小刻みに右の拳を握りしめて喜びを表現した。
「今節は自信のないままの開催だったけど、本当に近畿の仲間たちに助けられて獲れた優勝だと思います」
持病の腰部に不安を抱えて、高松記念、奈良記念の欠場を余儀なくされた。今年の初場所となった大宮記念から1カ月ぶりで、大一番を迎えた今シリーズ。初日特選はシンガリ惨敗に終わり、二次予選から立て直したものの、気づけば未勝利のまま決勝を迎えていた。
「準決のラインだったりとか、勝ち上がりも含めて27人中(近畿地区から)12人が勝ち上がった」
18年オールスターの初タイトルから孤軍奮闘していた時期もあったが、同地区から古性優作が頭角を現し、同県の後輩、寺崎浩平も今シリーズは寬仁親王牌、競輪祭に続いてG1を3大会連続で優出。6人が大挙して進んだ決勝は、ラインが2つに分かれた。
「(寺崎が初めてG1優出を果たした)一番最初に連係したオールスターから、もう4戦も一緒にG1の決勝を走っている。本当に心強い後輩だなって思います」
こう言って信頼を寄せる寺崎への気持ちは、ピンチに陥った決勝でもブレることはなかった。
打鐘を6番手で迎えた寺崎だったが、単騎の深谷知広に内を行かれて、最終ホームでは7番手。反撃のタイミングも逸したかに見えたが、脇本はその後ろでジッと我慢した。
「(寺崎は)ジャンのところで行くかなって思っていたんですけど構えた。どこからカマしにいっても付いていけるようにと。寺崎君を信じて、(仕掛けるタイミングを)待っていました。踏みはじめはちょっと口が空いてしまったので不安だった。けど、しっかり追いついていけたかなと。(寺崎は)初速もすごかったですし、バックが向かいだったんですけど、すごい伸びだった。成長がすごいなって思いました」
後輩の進化を感じながらも、3コーナーではすでに射程圏。寺崎の外を踏み込んだ脇本は、直線の入り口では寺崎に並んで、スピードの違いは明らかだった。
「(最後の直線は)内側がかなり伸びているような雰囲気だった。それでちょっと早めでしたけど、外にはずしてしっかりゴール勝負しようと」
後輩とのワンツーも寺崎を1車身半、突き放しての優勝。18年のG1初優勝から7年を待たずにグランプリを含めての全7冠を制覇。史上5人目のグランドスラムは、同時に初のグランプリスラム(6つのG1とグランプリ優勝)にもなった。
「(18年にG1を)獲りはじめてから、ここまではすごく短かかったなって思います。近畿の仲間たちに助けられて獲れたタイトルだと思いますし、今後もしっかりと近畿を支えていきたい」
誰もが成し得なかった頂に登りつめながらも、近畿の脇本は仲間への感謝を何度も口にするのだった。
単騎の深谷に内をすくわれた時には万事休すかに思われた寺崎浩平だったが、立て直して最終2コーナーから踏み出すと次元の違う加速を披露。4度目のG1ファイナルで初のタイトルも視界に入っただろうが、まくり切った寺崎の横には驚がくのスピードですでに脇本がいた。
「(赤板で)眞杉(匠)君が突っ張ったので、あのタイミングで行ければ良かったんですけど。眞杉君のピッチが飛び付きそうな感じだったので、(打鐘では)自分の得意なまくりでいこうと思いました。(打鐘)4コーナーで緩めばカマそうとも思ったんですけど。でも、しっかり勝負しにいけた。でも、脇本さんとの脚力差は感じました。それでも自分も勝負にいっての結果だった。(今回はシリーズを通して)自分の強みは出せたと思います」
深谷知広は、最終ホームで6番手。寺崎より先に仕掛けられず、3コーナー過ぎから外を踏んで福井コンビを追いかけた。が、福井勢を脅かすことはできずに3着まで。
「ちょっとジャンで見てしまった。寺崎君が動くのを待ってからと思ったら、タイミングが遅れてしまった。(寺崎ラインをすくって)あのままいければ良かったんですけど。(風も強くて)周回中から脚を使ってしまった感じでした。(最終バック付近で)古性君が行くと思ったけど、仕掛けるのが遅くなってしまった」