Vポーズも初々しい。26歳、村上義弘の記念初優勝だった。同年2月には豊橋で、ふるさとダービーを制覇。すでにビッグVを遂げていたものの、9月の地元、この向日町で初めて記念Vを手に入れた。
2度のグランプリ制覇にG1での優勝は6回を数える。ファンの脳裏には、それぞれのベストレースが焼きついているが、村上自身は…。28年間の競輪人生。そんな問いかけに、先の引退会見ではこう振り返った。
「印象に残っているレースですけど、本当にもう数々ありすぎて、どれがというのは選べないです。いまこう思い返しても、いろんな場面が自分のなかに駆け巡ったんですけど…」
そのなかで村上が1つだけあげたのが、この向日町記念だった。終わってみれば3連勝の完全Vだったが、決勝は番手の松本整(京都・45期、引退)から内林久徳(滋賀・62期、引退)への近畿ラインのズブズブが車単の1番人気だった。主役はあくまで松本だったが、その松本を8分の1輪振り切る壮絶なゴール勝負が今日までの村上の礎を築いた。
「自分のプロとして、勝負師として、1つのターニングポイントになったレースは、初めてG3を優勝した時の地元の向日町の平安賞。松本整さんには公私にわたってかわいがってもらったんですけど。ゴール前で松本整さんが自分を抜くために体をぶつけながら来てくれた時に、その本気というか…。その時までの自分の甘さと、その後の自分の競輪選手生活に大きな宝物をくれた」
勝負の厳しさを身をもって教えてくれた。04年の高松宮記念杯V直後の劇的な引退まで、松本は妥協なき走りを貫いた。それは村上もしかりだった。