インから抜け出し2度目のG3優勝
最内の平原康多がスタートを制して、埼玉勢が前団に構える。5番手にいた吉田有希は単騎の佐々木悠葵にすくわれたのもあり、仕掛けのタイミングを逸する。赤板2コーナー手前で吉田が外に持ち出すも、森田優弥が腹を固めてペースアップ。森田の先行で埼玉勢が、レースを支配した。4車ですんなりかに思われたが、同地区も単騎の佐々木がインを突いて宿口陽一の横まで追い上げる。初日特選のことが、宿口の脳裏をかすめた。
「佐々木君が平原さんの後ろを狙っていた。それでそこまで余裕がなかった。初日にああいう形で新田(祐大)君に負けちゃったので…」
初日特選では、インから新田に平原後位を奪われた。同じ轍は踏めない。その思いが、平原の後輪だけに集中して、結果として宿口の視野を狭めた。
内に佐々木を見ながらレースは流れて、平原は最終2コーナーから番手まくり。宿口は外で踏み勝ち平原に続いた。
「初日に失敗したので、そこだけは頑張りたいっていうのがあった。けど、そのあとは、後ろを確認するなりをしないといけなかった」
後ろには4番手を固めた後輩の中田健太がいる。吉田は不発もその上を自力に転じた坂井洋がまくりで迫る。宿口を通過した坂井を4コーナー手前で平原が自らブロック。空いた内を宿口が追い込んだ。
「自分のやるべきことができなかった。(最終)3コーナーで(坂井を)振るなりしていれば…。そういう細かいところを1つ1つ突き詰めていかないと。僕がしっかりやっていれば、中田まで連れ込めたんじゃないかと。(平原にも)そう言われたので、ちゃんと心に止めて頑張りたい」
鮮やかに内を抜け出して先頭でゴールを駆け抜けたと言えば響きはいいが、ラインの競輪、そして“競輪道”追求する身にとってはやはり手放しで喜ぶわけにはいかない。高校の先輩であり、練習仲間でもある平原のジャッジが厳しいのも当然かもしれない。
「去年は去年で人の後ろも多かったけど、こなせていた。それが今年になってこなせていない。今年に入って余裕がなさすぎですね。余裕があれば一発もっていけた」
昨年10月の前橋に次ぐ2度目のG3優勝。6月に高松宮記念杯を制して、タイトルホルダーの仲間入りを果たした。そのままの勢いでグランプリまで突き進んだ昨年とは違い、今年はS級S班の重圧をひしひしと感じている。
「(寬仁親王牌では)平原さん、カミタク(神山拓弥)、桑原大志さんにありがたい話をしてもらいました。同期のカミヤマからは去年の気持ちを忘れるなって。今日(決勝)はあれが外なら良かったけど、内なんで(優勝しても)喜び半分です」
これからもいばらの道には変わりはないが、今年の初優勝がなによりも良薬だろう。関東の仲間、そしてS級S班を経験した先輩たちからの力を借りて、今年ラスト1冠の競輪祭を迎える。
平原の番手まくりに吉田のスピードが鈍る。最終2コーナー過ぎに坂井洋は、その外をまくって出る。踏み合いを演じた平原をのみ込んだ坂井だったが、内の宿口をとらえることはできなかった。
「(吉田)有希のまくりもすごい出ていたんで、行けるんじゃないかと。でも、平原さんがすかさず番手まくりをした。もう間に合わない、自分で行かないとしょうがないと思って行きました。自分のスピードも良かったし、平原さんのけん制があったんで、体幹が抜けないようにした。(関東が別線で)自分は割り切れるタイプですし、敵になった以上はやれることは全部やってと思ってました。すごく勉強になりました」
埼玉4車の要の平原康多は、番手まくりを敢行。同県の後輩たちの思いもくんでのものだったことは想像に難くないだけに、宿口にはこう言う。
「有希がどこから踏んで来るかでしたね。その動きを見て、自分はどうするかでした。(森田が)頑張ってくれたけど、坂井がいいスピードだった(ので番手から出た)。そのあとは宿口にもっていってもらいたかった。もっていってれば、(中田)健太の競輪祭(G3決勝の33着以内)も決まってたんじゃないかと。優勝はおめでとうだけど、(宿口には)そういうのも考えられる選手にならないと」