単騎で強力ラインを撃破
連日圧巻の走りを披露していた犬伏湧也に九州勢が付いて3車になり、橋本壮史にS級S班の佐藤慎太郎ら北日本勢。別線に強力なラインができあがったが、浅井康太は単騎でもVプランを模索した。
「(4番手の)その位置からスタートするのが基本かなと。ラインの並びとしてもセオリー通りだと」
同期の犬伏を押さえた橋本が先頭に立ち主導権を握る。浅井は4番手にスイッチして、その後ろに南関勢が続いた。犬伏が7手に引き切ると、橋本は打鐘過ぎからペースを上げて駆ける。
「橋本君が落ち着いて駆けていたんで、犬伏君が来るのも厳しいかなっていう感覚があった。自分は(最終)ホーム手前で車間を切りすぎて、ちょっと脚を使いながらでした」
最終ホーム手前から後方の犬伏が襲い掛かる。が、浅井は慌てることなく自らを信じて踏み込んだ。
「犬伏君がどうのこうのよりも、しっかりと仕掛けてタテ脚勝負と。(付いてきた松谷秀幸に)抜かれるのも仕方ない。(南関勢を)味方につけて、犬伏君に勝つっていうのが競輪のセオリーですからね」
犬伏に並ばれることなく、浅井が抜群のタイミングでまくる。逃げる橋本の番手の佐藤慎太郎にブロックのチャンスも与えず、浅井が3コーナー過ぎで前団をとらえる。それでも単騎だけに油断はできないが、追走の松谷を振り切って先頭でゴールした。
「しっかりと仕掛けて勝てたのは大きい。自分も力ある犬伏君、橋本君に刺激をもらって走れた」
地元、中部地区の牙城を守った浅井だが、日本選手権制覇で凱旋した山口拳矢は準決で落車に見舞われ、橋本優己、志田龍星らの地元勢は勝ち上がりを逸した。
「中部勢の層が薄いですし、近畿勢とかには負けてしまう。それでも力勝負をして結果がついてきた。負けるのにビビッてしまわないで、仕掛ければチャンスがある。それが身をもってわかった」
4月の四日市G3も単騎でこそなかったが、中部勢は浅井1人というなかでの優勝。劣勢でも臆することなく踏み出すことを若手に示した浅井の存在は、中部地区にとって計り知れない。“僑軍孤進(きょうぐんこしん)”。たとえ1人になっても闘い抜く精神力とセンスが浅井にはある。
結果的には浅井の力に頼る形になった松谷秀幸が、まくりに流れ込んで2着。山賀雅仁を連れていただけに、納得のいかない表彰で振り返る。
「ジャン過ぎくらいで1回詰まるところがあるだろうと。そこで目いっぱいいくか、内から(佐藤)慎太郎さんのところか、前まで行ってと思っていた。そしたら(橋本が)めっちゃ踏んでハイピッチだった。(高松宮記念杯に)気持ちを切り替えて、またですね」
橋本ラインの3番手の菅田壱道は、前の佐藤慎太郎の進路を確認して直線で南関2人の間を踏み込む。ゴール前のハンドル投げで、山賀を交わして3着に届いた。
「(犬伏が)すんなり引いてくれたんで、橋本君のペースでした。自分は内を締めるのに集中していたし、真後ろから来た浅井さんには対応できなかった。慎太郎さんが前に踏んでたから、慎太郎さんのいかないコースをって思って踏んだ。最後のひと伸びで(3着争いに)勝てた。現状の点数だと(11月の)競輪祭(の出場権)もキツいかなっていうのがあったんで良かった」