世界の脚で完全V
ガールズケイリンが12年目に突入して、新設された「オールガールズクラシック」。初代女王にふさわしい圧巻のパフォーマンスで、佐藤水菜がゴールを駆け抜けた。
「初代女王っていうのは、これから先、絶対に名前を挙げてもらえる。そこで自分が女王になれて、後世に自分の名前を知ってもらえるチャンスが増えたので、すごくうれしいです」
終わってみれば危なげのない3連勝の完全Vも、決して万全とはいえるコンディションではなかっただろう。ナショナルチームのエースとして中国でのアジア大会に出場。ケイリン、スプリト種目の2冠を奪取したものの、帰国したのは前検日の前の日の9月30日の夜。中ゼロでの強行ローテーションで、大一番を迎えた。それでも決勝も攻める気持ちに変わりはなかった。
「1周半を自力で行こうと思ってました」と、打鐘からの仕掛けが佐藤の頭の中にはあった。が、赤板2コーナー手前から上昇した目の前の児玉碧衣、さらに太田りゆの仕掛けを冷静に見送って、自身の力を信じた。
「自分が一番最初に仕掛けようって考えていたけど、前の選手が動く素振りがあった。そこは冷静に見極めていた。正直、レースは覚えてない。ただ、外に行った時に伸びていくよりかは、止まった印象があった選手がいた。自分はそこにスピードが合わないようにと」
腹を固めた児玉が、打鐘2センターから主導権を奪って駆ける。そこに十八番のまくりで太田りゆが迫るも、3番手付近でスピードが鈍る。太田に乗った佐藤は、2コーナー手前からギアを上げてちゅうちょすることなく大外を踏み込んだ。
「(優勝を確信したのは最終)4コーナーの下りでした。下り切る前に横の選手がいなくなった。あとは後ろから差されないように集中して走りました」
逃げる児玉の抜群の掛りに、2番手の久米詩も動けない。ただ、佐藤だけは違った。外を回るロスもありながら、児玉を並ぶ間もなく交わして、後続を置き去り。ゴール線では2着の吉川美穂を3車身ちぎって、役者の違いを見せた。
「(レース中は集中して)いつも外部の音が聞こえなくなる状態は常にです。レース中はどのレースでも絶対そうなので、そこは変わらずでした。ただ、(雨で)自転車が進み過ぎてしまうから、そこだけはうまくコントロールしなきゃなって頭でした」
ナショナルチームでの活動でガールズケイリンでの出場機会は限られ、優勝前の賞金ランクでは20位にも入っていなかった。6月のパールカップも不出場で、4回目のグランプリ出場権を得るには、ここか11月の競輪祭で優勝するしかなかった。その重圧をはねのけての優勝だった。
「(今後も)メインは競技の方になってしまうんですけど、いまの自分の実力で言ったらやっぱり(パリ五輪での)金メダルは難しいところにあります。自分に対して自信をもたずに、しっかりと1日、1日を大事にもっとトレーニングしていかなきゃなって思います。現状で満足してしまうと、もう自分はそれで終わりだと思っている。現状には私はまったく満足はできないですし、満足してしまったらそれで終わりって常にやっているので、もっともっと強くなりたいです」
G1を制覇し、グランプリチケットを手にしても、佐藤にとってはあくまで通過点。ここでとどまることはできない。
吉川美穂は、最終バックで苦しい6番手。コースを縫って久米の後ろに取りつくと、直線ではシャープに伸びて2着に入った。
「前々と思っていたけど、佐藤さんと太田さんが来た時にはどっちに行けばいいか迷ってしまった。佐藤さんが外からすごい勢いでいきましたね。体調も良かったし、位置的にも良かったから自分的には残念。最後は空いたコースが見えたので、そこにいくしかないって思った。1回バックを踏む形になったけど伸びて良かった。もうちょっと展開が良ければ、優勝もあったかもと思っています」
最終ホーム手前で逃げた児玉の後ろに俊敏にスイッチした久米詩にとっては、好展開かに思われた。が、佐藤のまくりに合わせて出る脚は残ってなく3着がいっぱい。
「自分の脚が足りなかったです。今日(決勝)は自分から仕掛けるしかないと思っていました。課題がいっぱい残る開催だったので、これからトレーニングをして強くなります」