まくりVで波乱の決着
圧巻の内容で勝ち上がってきて、地元で人気を集める北井佑季との実質的な2分戦。関東3人のラインで、宿口陽一が先頭を務めた。
「最後、京王閣で(G3を)獲った時は、自分の仕事を全うできなかった。今日はラインの先頭で、自力勝負をすることができたんで良かったです」
番手まくりを打った平原康多の内から抜け出して優勝した昨年11月の京王閣記念ことが、どうしても宿口の心には引っ掛かっていたのだろう。真っ向勝負でのV獲りに、宿口は目を細める。
「(周回中に)前だったら粘るっていう選択だった。中団だったらカマすか、単騎の動きを見ながらと。そしたら北井君が早い段階から踏んでいったので、流れが向きました」
初日特選から3走すべて前受けからの突っ張り先行に出ていた北井は、決勝も前団に構える。別線の動きはないなかで、北井は青板のバック過ぎに誘導を交わして踏み上げて風を切る。宿口は抜かりなく中団で、じっとチャンスうかがった。
「初日に北井君に(まくりを)合わされて、(仕掛けて)行く恐怖があったけど。自分が行かないと、後ろに2人にもチャンスがない。腹をくくって行きました」
同じく4番手から仕掛けた初日特選は、まくり不発でシンガリに散った。そのイメージを振り切って、最終1コーナーからペダルに力を込めて踏んだ。
「大森(慶一)さんとからんで、このくらいなのかなと思った。そしたらまた(最終)2コーナーから伸びていったんで良かった」
北井ライン3番手の大森のブロックでスピードの鈍った宿口は、あきらめることなく踏み続けて大塚玲のけん制も乗り越えた。あと宿口の前を走るのは、北井だけだった。
「初日に勇気をもって仕掛けられたのが、今日に生きた。今日が一番体も動いたし、反応も良かった。後ろを固めてくれた2人のおかげです」
逃げる北井を直線の入口でとらえると、後続の強襲を振り切って優勝。2月の豊橋F1以来、今年2度目のV奪取がG3だった。
「(今年の)前半は自分でレースを組み立てて、しっかり自力選手として走れた。けど、落車して低迷していた。これからもできることを精いっぱいやっていきたい」
グレード初制覇は一昨年6月の高松宮記念杯。G2、3を飛び越えてタイトルホルダーの仲間入りを果たした30代後半の“シンデレラボーイ”だったが、翌年のS級S班では思うようなパフォーマンスが出せなかった。
「去年はラインに迷惑を掛けてしまって辛い時期もあった。平原さんから厳しい言葉をもらって、いまの自分がある。変わらずにラインのためにやっていきたい。今年最後にG1、競輪祭があるので、そこで爪あとをしっかりと残したい」
高校時代から平原の背中を追い続けてきた宿口の姿勢は、いまも変わらない。埼玉の仲間、そして関東地区のため。その思いを継続しながら、このG3制覇で、少しは肩の荷を下ろしてもいいのかもしれない。
山本伸一は周回中、単騎3人のなかでは一番前の7番手。最終2コーナーからのまくりで2着に届いた。
「(周回中は)北井君ラインの4番手を取りたかったけど、自分は9番車だったんで厳しかった。僕から動くよりも(脚を)ためた方がいいかなと。あそこでは仕掛けようと決めてた。自分の踏んだところと宿口君の仕掛けが合って、乗り越えられなかったのは悔しいけど及第点かな。宿口君の位置を取れていたらチャンスがあったと思う」
連日の伸びが光っていた大森慶一は、北井ラインの3番手。宿口のまくりをブロックしてから、前団の状況を見極めて追い込んだ。
「北井君が誰も出させないように駆けてくれたけど、オーバーペースみたいな感じでしたね。単騎の久田(裕也)君の一発が来ると思って警戒してたんだと思う。(最終)3コーナーでは内はさすがに行けないから我慢して、そうこうしている内に2人(宿口、山本)に行かれていた。今日は誕生日だからもしかしたら、(優勝も)あるかと思ったんですけどね(笑)」