底力を見せたまくりV
「状態はいいけど、自力でやって優勝できるとは思わなかった」
優勝会見で守澤太志が、正直な胸中をこう吐露した。同じS級S班で同地区の新田祐大が、あろうことか準決で敗退。東日本地区で連係して準決でタッグを組んだ坂井洋は、自身が離れたミスで7着に沈んだ。1人での戦いかと思われた決勝だったが、ファイター内藤秀久が守澤に託して後ろを回った。
「自分でやるはめになったのも、準決の自分のせいですし。まだまだなところがある。それなのに内藤さんが付いてくれるってことで気合が入りました」
11月の競輪祭まで獲得賞金ランクで新S班の座を争ったが、4度目のグランプリはかなわず、来期からはS級1班に陥落。優勝からも遠ざかっていた。それだけに強気になれなかったとしても無理はなかった。
「理想の組み立ては松本(秀之介)君(ライン)の3番手を取って早めにまくるのが自分のできることだと。(最終)ホームで(三谷竜生が)来ていたのを確認して、あとは自分のタイミングでまくるだけだなと。(押し切れるかどうかではなく)そこを行かないと終わっちゃう。仕掛けてダメな時に、また次を考えればって」
赤板1コーナーで切った出た守澤が、思惑通り九州勢を受けて3番手を確保。そのまま松本の先行でレースは流れて、5番手の三谷が最終ホームから仕掛ける。1センターで三谷を弾くと、一呼吸置いて2コーナーまくり。逃げる松本を仕留めてのV奪取が、今年の初優勝だった。
「(別府記念を優勝したのは)一昨年(6月)なんですけど、2連覇できたのはうれしいですね。(今年は)ここまで優勝できてなかったんで、不甲斐ない1年です。優勝しても、今年の分を取り返せる感じの成績ではなかった」
2月の全日本選抜を準V、続くビッグ、当所でのウィナーズカップでも3着の表彰台。前半戦は大きく賞金を加算しながらも、5月の日本選手権で落車に見舞われ頚椎骨折の大怪我を負った。不本意な23年だったことは間違いないが、相性のいい別府で少なからず留飲を下げた。
「今年の前半はタイトルを目標に頑張ってみたけど、全然、届かなかった。そんな器じゃないんだなって(笑)。いい思い出になりました」
最後は自ちょう気味に静かに笑った守澤。これまでビッグ優勝こそないながらも、3年連続でS級S班を守ったのは紛れもなく超一流の証。来年はS級1班からのタイトル奪取で、「もう赤いパンツを目指すことはない」と言った自身の言葉をいい意味で裏切ってほしい。
守澤マークの内藤秀久は、外の三谷と併走のまままくりに続く。大塚健一郎のけん制もあって、両者に挟まれながらも懸命に食らいついた。
「最後は夢をみちゃいました。でも、(2着で)現実に戻りました。悔しさもあるんですけど、やった方ですね。(前の守澤の)縦横無尽に任せていました。松本君が駆けての先まくりが一番の理想だったんで、その形にはなった」
前の松浦悠士が、最終2コーナーで内を進出。佐々木豪は苦渋の判断で連結を外して、バックから外を踏み込む。落車のアクシデントを避けて3着に繰り上がったが、松浦が落車だけに心中は複雑。
「僕も(松浦と)一緒に内へ行ってたら、コケてたかコースがなかったと思う。キツくても、外を回すしかなかったですね。松浦さんに全部、任せていたんで、あとは僕の脚不足。(松浦は)グランプリの前だったので、落車だけはホンマなしでと思ってたんですけど…」