昨年末のグランプリ準V以来、今年の競輪初場所は東京五輪から中ゼロの強行軍だった。メダル獲得こそならなかったが、オールスター前検日の前日、8日にはケイリン種目の7~12位決定戦でトップのフィニッシュで五輪を終えた。地元開催の五輪だったとはいえ、常識では考えられない日程でオールスターに臨んだ。初日のドリームレースでは、8番手まくり不発でシンガリに沈んだ。まさかという思いと、五輪直後だっただけに致し方ないと、ファンの思いもそれぞれで複雑だったに違いない。
「自分のいまのコンデションと競輪から離れてたのもあって、どういう作戦でっていうのは想像がつかなかった。正直、今日(初日)のレースに迷いもありました」
ナショナルチームのチームメイトの新田祐大ともども、いきなり夢の競演。最高峰の舞台に立たされたのは酷だった。それでも新田、脇本雄太が6日間のロングランシリーズで、最終日の決勝にコマを進めたのは、2人の底力とそれを後押ししたファンの見えない力だろう。
新田を先頭に4車で結束した北日本勢。対して、脇本は古性優作と2車のライン。数的には圧倒的に不利な脇本だったが迷いはなかった。
「僕自身、常に絶対ラインで決めたいっていうのがある。古性君との信頼が、ああいう戦い方を生んだんだと思います」
赤板過ぎから自分の間合いを取り、一撃で仕掛ける十八番のパターンを捨てた。単騎の深谷知広を追いかけて、脇本はタイミングを計ることなくその上を叩いて打鐘で主導権を握った。後ろには古性がピタリと続き、2人の呼吸に別線は付け入る隙がなかった。直線を先頭で迎えた脇本は、別線の反撃を完封したがわずかに失速。ゴール前で古性が追い込んで優勝。脇本の走りが、古性に初タイトルをもたらした。
「これまでも近畿の選手の優勝を見てきたけど、何度見ても色あせることがない。日本の競輪はこういう感動があるからやめられない」
ラインのない競技のケイリン。個の戦いで世界に挑んだ脇本だからこそわかるラインの大切さ。古性の優勝に自然と笑みがこぼれ、競輪選手、脇本が近畿地区の仲間たちと喜びを分かち合った。
「体は疲れてたけど、近畿のみんなとレースができて、お帰りって迎えてもらった。ワンツーで最高の形だった。このあともレースがありますけど、とりあえず休ませてほしい。本当の意味での休息を」
2021年8月18日 更新