今年も『2人だけの世界』
重ねた苦労が多ければ、喜びもまたひとしお。平原が最後の最後で、劇的に武田ともにGPチケットをもぎ取った。
「こんなことってあるんですね。競輪人生で味わえただけでも幸せ」
メイクドラマの当人も興奮冷めやらぬ様子で口を開く。
「今年はとくに2人とも良くない時期が長かった。本当にGPを走れるっていうのは、前半の感じだとウソのようです」
GP出場へは、ともにあとがない状況でのラストG1だった。
「ものすごく気持ちが入ってました。ここを目標に後半はやってきたので、本当にその成果が実になって良かったです」
落車禍で怪我に泣かされ続けた16年。ここまでの優勝も小松島記念のみ。怪我の影響が色濃く残るなかの寬仁親王牌準Vで賞金を積み重ね、ようやくGP圏内にはたどり着いた。が、G1を獲ってGPへという思いにはブレがなく、表彰台の真ん中に狙いを定めていた。
レースは早めに押さえて出た深谷の主導権。愛知勢に単騎の稲垣が続いて、平原が4番手。別線にプレッシャーを与えながら絶好位をキ ープしたが、巻き返した新山が不発になると新田にかぶって行き場を失いピンチに陥った。
「基本的に予想していた展開じゃなかった。そこを自分で対応していってと思っていた。(最終)2コーナーでは仕掛けたかったけど、 新田が外に浮いていたので仕掛けられなかった。そしたら稲垣さんが踏んでくれた」
稲垣のまくりで、平原に視界は大きく開けた。それでも盟友、武田がGP権利を手にするには、2着以内が絶対条件。安全策を取ること なく、平原は武田のために稲垣の上を力任せにまくって出た。
「調子が良かったのか思ったよりも(まくりが)出ました。自分が稲垣さんを抜くだけじゃなくて、ぶち抜いて武田さんを絶対に2着に と思っていた」
直線の入り口で稲垣をとらえると、武田を楽に引き込んで上位を独占。3年連続でのワンツーフィニッシュを結実させた。
「来年はしっかり一から出直しと思っていた。だからまだGPを走る気持ちができてない。GPの雰囲気は独特だし、平常心で挑めるよ うにしたい」
土壇場でピカ一の勝負強さを発揮して3度目の競輪祭V。まだその余韻を楽しんでいる平原が、これから1億円をかけたGPモードへと 切り替わる。
頼れる平原と3年連続の上位独占。競輪祭連覇こそ逃したものの、武田は勝負駆けでGP最終便に飛び乗った。年末の大一番へ思いを巡 らせながら、この苦しい一年を振り返る。
「自分がひどい状態で、そのなかで戦って2着は満足してない。でも、勝ったのが平原だからね。平原を抜くことが目標のレースだった 。今年一年は気力が充実してなかったのでキツかったですね。競輪祭でどうにかなるかなという気持ちは、多少ありました。このあと2、 3日で(GPへ)気持ちを切り替えていきたい」
単騎の稲垣は3番手を確保しての先まくりを断行。関東コンビに飲み込まれたが、3着表彰台には踏ん張った。
「近畿のみんなの頑張りがあっての決勝。力を出し切ろうと思ってました。深谷君の気迫みたいなものを感じたし、深谷君の先行だろう と。そこからは自分のタイミングで、思い切り踏もうと思った」
深谷は青板のバック過ぎから早めに押さえて、徐々にペース上げて逃げる。チャレンジャーの新山を不発に追いやったが、2車ではさす がの深谷も別線を完封するには至らず最後は馬群に飲まれた。
「前を取らされるかと思ったけど、みんな出ていったのでいつも通りにと。落ち着いていけたし、掛かりも悪くなかったんですけどね。 稲垣さんの(まくりの)ところでもうひと踏みする力があれば」
新山が深谷を叩けず最終1コーナーで大きく外へ。外併走から自力発動を期待された新田だったが、もはや余力は残ってなかった。
「G1選手は決勝になってくると気持ちがいつも以上に入る。(新山とは)その辺の違いが出てるんじゃないかな。2車で難しいレース になったけど、新山も考えることがまたひとつできたと思う」
前受けから下げた新山は、8番手からの反撃も不発。近藤の1車を迷って、巻き返しのタイミングが遅れた。
「近藤さんのところは粘ってもいいっていう話だったんで、迷いました。最初から引くって決めていれば、いいところまで行けていたと 思います。迷ったぶんワンテンポ遅れてしまった」