伏兵が内をスルリ
シンプルな組み立てが北津留にでっかい福をもたらした。平原、稲垣、新田、輪界屈指の機動力を備えるS班3人が、それぞれ単騎での戦い。一筋縄ではいかない難解な細切れ戦で、北津留は前々を心掛けた。
「できるだけ前で、取れたところをと思っていた」
稲垣が愛知コンビを受けると、北津留は4番手の内でじっと我慢。最終バックまで続いた小埜との併走をこらえると、前の稲垣がまくりを放つ。が、稲垣の車の出は一息。内から1車押し上げた北津留は、稲垣をけん制した吉田に続いて、逃げる深谷の空けたスペースにも俊敏に反応した。
「稲垣さんが仕掛けたけど、付いていくのがいっぱいだった。脚がないんで内を行くしかなかった(笑)」
直線の入り口で内から深谷を抜き去った北津留は、岩津を振り切って先頭でゴールを駆け抜けた。
「一年に一回のラッキーを使っちゃいました(笑)」
いまでは新田、浅井のS班2人をかかえる90期。そのなかでもピカ一の素材と言われた北津留も、今年の4月に32歳を迎える。
「脚がないんであきらめて、それで冷静に回りを見ようってなりました。32歳って、もうおじさんですよ。いまは2人の子どもが自転車にはまって、自分の練習仲間になってます」
記念Vで幕を開けた17年。これ以上ないスタートを切っても、北津留のマイペースに変わりはない。
内を突いた北津留のコース取りにもソツなく続いた岩津が、流れ込んで2着。
「ワンツーなんで100点満点。(北津留は)言った通りというか、落ち着いてレースをしてくれた」
絡んだ岩津に最終2角で弾かれた平原は、7番手からの立て直し。消化不良の3着を悔やむことしきり。
「うまいこといきませんでした。悔しさしかない。ダウンの必要がないくらい(脚を)使ってないです」
逃げる深谷の番手で願ってもない流れが訪れた吉田は、最後の詰めを誤った。
「全部、俺のせいです。深谷もタレてなかったんで、4コーナー勝負と思った。しばらく後悔しますね…」
「軽いコースを探して、(内が)空いちゃった。失敗です。でも、手応えはつかんでいる」と、逃げた深谷は、気持ちを整理して、帰り支度を始める。