稲川翔が華麗なV差し
南関勢がつくり出したすさまじいペースに、絶好位の4番手を確保したはずの村上も苦戦。車間がなかなか詰まらなかったが、稲川の信頼が揺らぐことはなかった。
「村上さんに付かせてもらう時は、毎回勉強の気持ちです。村上さんが、絶対にチャンスのある走りをしてくれると思っていた」
前団を射程圏に入れた村上を突き放すように、今度は根田が番手まくり。それでも執念で根田、岡村に取りついた村上のチャンスメイクで、稲川にVロードが開けた。
「万全ではないなかで決勝に乗れたし、もう失うものがない。ゴールまで力を残さないように」
昨年12月の向日町準決で落車に見舞われ、途中欠場を余儀なくされ昨シーズンを終えた。18年初場所の地元、岸和田の決勝でも落車。アクシデント続きのなか、村上とのタッグで記念Vをつかんだ。
「年末、年始で落車をして、まさか自分が優勝できるとは思ってなかった。結果がついてきてくれてホッとしてますし、村上さんとの連係で優勝できたのはうれしい」
一昨年の川崎以来、通算2度目の記念制覇。14年、高松宮記念杯で初戴冠を成し遂げた時と同じように、優勝を重ねても稲川の慎ましやかなさまは変わらない。
「まずは近畿でしっかり自分のできることをですね。そこから」
山中が持ち前のスピードを生かして、一気に主導権を奪取。続いた根田が番手まくりを放ち、岡村が抜かりなく追走。稲川の差し脚に屈した岡村は、準Vに唇をかむ。
「(後続に)一気には来られないと思っていたんですけど。山中君もあんだけ行ってくれたのに、(優勝できなくて)申し訳ない…」
根田は山中のスピードが鈍ると、車間を詰める勢いで番手発進。そのまま押し切るかに思われたが、直線半ばで失速して3着に沈んだ。
「タイミング的には良かったけど、自分の脚が足りなかった…」
地元の坂口は高橋に乗って、直線で中を猛襲するも前が遠かった。
「山中さんと根田君の2段駆けで、スピードが完全に上がりきっていた。もう前が掛かりすぎてた」
ハイペースにてこずった村上は、稲川のVをたたえて振り返る。
「先輩らしいことはなにもできなかったけど、(稲川が)力で獲ってくれた」