時代を変える逃走劇
10年、G1初出場の寬仁親王牌でセンセーショナルに決勝進出。先行策で市田佳を初タイトルに導いた。その時、平成生まれの選手として初めてG1ファイナルの大舞台に立った脇本が、平成最後のオールスターを制して念願のタイトルホルダーに輝いた。
「今年はG1の決勝に何回もあがっているのに、優勝ができなかった。悔しい思いがあった」
5月ダービー、6月高松宮記念杯ではともに、脇本がレースを支配して、番手を回った三谷竜が優勝。自らも表彰台にあがった。“タイトルに一番近い男”であることは、誰が見ても明らかだった。『まくりでもいいからタイトルを』、そんな周囲の声にも、脇本は先行でのタイトル獲りにこだわった。
「まくりとか自力で勝つよりも、自分が先行して勝つっていうことに価値がある。これで僕のなかでは心おきなく先行日本一と言える」
終わってみれば脇本の独壇場も、3車で強力な布陣ができあがった中部勢、地元オールスター連覇に燃える渡邉と好メンバーがそろっていた。脇本を警戒しながら赤板2角手前で主導権を握った竹内が、ピッチを上げて逃げる。
「あのまま待っても自分に勝ち目はないし、なんとしてもどこかで勝負をしないといけない」
フルアクセルで抵抗する竹内に襲い掛かった脇本が、最終1角過ぎに主導権を奪う。最後は浅井を3車身離して逃走劇を完結。先行の美学を貫きG1初制覇を遂げた。
「東京五輪のケイリンでメダルを獲りたいっていう強い意志のなかで(G1優勝が)生まれた。毎日、毎日、集中して練習している結果だと思います」
20年の東京五輪を目標に掲げ、ナショナルチームでのハードトレーニングに明け暮れる日々。一昨年、チーム体制が変わり、昨年は本業の競輪でも思うように結果を残せなかった。
「去年1年は僕も苦しんだ。1年我慢して、いまは結果が出ているからそれでいいと思う。いままでもっていた理論とかを変えてやっていくには、やっぱり18カ月くらいはかかる。このあとは21日に出国するアジア大会で結果を求められるし、しっかりと頑張りたい」
アジア大会が行われるジャカルタ(インドネシア)に向けて旅立つ脇本が見据える先は、2年後の東京五輪。悲願のメダルまでタイトル獲得はあくまで通過点だ。
浅井は近畿3番手の村上をどかして古性にスイッチ。まくってきた渡邉に合わせて、最終2センターから踏み込んだが離れた2着。
「めちゃキツかったです。ワッキー(脇本)が見えたんで1回振った。あれを行かれたら僕のラインが終わるんで。ワッキーを振りにいったぶん、古性には当たれなかった。うまいことやったけど…」
地元オールスター連覇を狙った渡邉は3着。ナショナルチームのチームメイトである脇本の優勝を称えながらも、地元で優勝を逃した悔しさからか表情は硬い。
「前から中団、中団に攻めて、すべて読みどおり。でも、村上さんに対しての浅井のブロックが効きました。優勝以外は負け。優勝だけ考えて走ってたので悔しいです。でも、ワッキーはいつ優勝してもおかしくないと思ってた。強かったし、素直に祝福したい」
脇本に離れてしまった古性が、判断ミスを悔やんだ。
「止まりそうだったんで、脇本さんの位置を確保せなあかんのかなと思って内を見た瞬間に伸びて行った。そこからカバーできる脚力があればいいけど、自分の判断ミスですね。後ろに村上さんがついてるのに申し訳ないです」