復興を遂げるその日までは
メキメキと頭角を現してきた山崎賢、昨年グランプリ争いを繰り広げた山田英をはじめ、地元地区のG1に戦力を整えてきた九州勢だったが、準決を前に中川を残して九州勢は全員が敗退。中川だけがサバイバルシリーズを勝ち抜き、ただひとり決勝に進んだ。
「ちょっと考えたんですけど、自分でやろうかなと思います」
前日の決勝共同インタビューでは、例によって笑みを浮かべながら自力を宣言。迷いを断ち切って持ち前のパワーを爆発させた中川に、ラインという援軍は必要なかった。
「もっと吉澤君が誰にも主導権を渡さないっていう感じかと思った。そしたら思いのほか、ペースに入れた。ちょうど(和田)真久留と併走になったんで、そこで(仕掛ける)腹をくくりました」
打鐘で出た吉澤ラインを追った中川は、イン切りから下げた和田と4番手を併走。位置取り勝負との選択に迫られたが、単騎でも強気に前団に襲い掛かった。
「準決で1周行ってたので、それよりは落ち着いて(最終)4コーナーを回ってこられました。ただ、ゴール後も(佐藤)慎太郎さんに抜かれたのかわからなかった。1周回ってスロー(VTR)を見た時に残ってたので、ちょっと遅れてガッツポーズしました」
常識を覆す“ひとり旅”で逃走劇を完結。16年のダービー以来、2度目のG1制覇をまたも単騎で遂げた。
「そう(G1は2度獲って一人前と)言われたので、これで一人前になれたんだと思います。すさんでいたというか、やる気がなくなっていた時期もあったんですけど。1年ぐらい前からですかね、もう競輪人生も長くないと思うので、もう1回やってみようと。(昨年の)2月ぐらいから(本格的にトレーニングを)始めた」
昨年4月に一度は追い込み宣言をしたものの、天が与えた才能が自力を捨てることを許さなかった。単騎での逃げ切りでタイトル奪取が何よりの証だ。
「やっぱり、そこ(熊本競輪場)を走ってこそ復興と言い続けているので、そこを走るまではなんとか上で、維持して頑張りたい」
21年末に400バンクに生まれ変わっての再開が、見込まれている熊本のホームバンク。それまでは…。6月に不惑を迎える中川には、すでに自力の迷いはないだろう。
茨城コンビの後ろから中を割った佐藤だが、粘る中川まではとらえることができなかった。
「バランスを崩したというより、吉澤がまだ空けてなかったから、空くまで待ってその間だった。だからタイミングがちょっと遅れましたね。当たって空けたら失格。空くまで待たなきゃいけないんでしょうがない」
単騎でカマした中川を抜ければ優勝だった吉澤だったが、もはやその力は残っていなかった。
「(最終)バックでケツを上げて、なんとか追っかけたけど全然でした。まったく余裕がなかった」
吉澤マークから直線で外を踏んだ武田は、香川との接触もあって伸び切れなかった。
「吉澤も(最終)ホームで流しているわけじゃなく、ちゃんと踏んでいる。ただ、中川君の脚力が、2段階も3段階も上をいっている。(吉澤と)2人でまともなレースができたし、慎太郎君もラインに参加してくれたけど甘くなかった」
中川のカマシは予想だにしなかった松浦は、前が遠かった。
「4番手併走を期待してたけど、カマシは想定外でしたね。今回はなにもできてない。今度はなにかできるようにしっかり準備したい」