チャンスをモノし3度目のタイトル
不惑を迎えても、勝負強さは健在だった。
「正直、GIを獲れるって、もうないかなって思ってた。決勝には乗りたいっていうのがあったけど、ホンマにまさかでした」
4月に40歳になった村上博幸は、今年“チャレンジャー精神”をテーマに競走だけに限らず、トレーニングから日常生活に至るまで競輪に心血を注いだ。
「自分が後悔のないようにやれることをやりたい。それを家族がサポートしてくれました」と、周囲への感謝を忘れない。
1月、2月にはそれぞれ記念優勝を遂げて、19年は幸先のいいスタートを切った。その後も安定した成績を残し、7月のサマーナイトフェスティバル(G2)では、久々のビッグ制覇。順風満帆なようにも見えたが、地元の向日町記念を前に体が悲鳴をあげて古傷が再発。地元記念の欠場を余儀なくされ、今シリーズが復帰場所だった。
「(向日町記念を)欠場した怪我もけっこうひどかった。それは後遺症だったんですけど、そういうのも含めて、どれくらいの練習をすれば痛みが出るかっていうのを歳を重ねるごとにわかってきた部分もある。そこをうまくやっていきたい」
「理事長杯」で2着に入り、2日目の「ローズカップ」に進出すると、準決では三谷竜生とともにファイナルのキップを手にし、決勝でもタッグを組んだ。
「毎回、優勝して思うことなんですけど、4日間を通して自分に(流れが)回ってきたかなと感じてます」
終わってみればシリーズの4走すべてで三谷と連係。決勝は清水裕友後位がもつれると、打鐘過ぎに三谷が思い切りよく出て先行策。3番手で絶好のはずの清水も仕掛けられず、村上に願ってもない展開になった。
「(三谷)竜生がしっかり自分のタイミングで、怯まずに主導権を取ってくれた。自分はそこで冷静にバンク特性を生かして走れた」
三谷を半車身交わしてのゴール。優勝を確信し右手を上げた村上に、2度目のG1制覇、14年の全日本選抜から5年以上の時が流れていた。
「今の精神状態で、それこそ初タイトルの時の脚力があれば、もっといけるんかなっていうのは感じます。でも、歳を重ねて肉体的にも落ちるところもあれば、精神的に上がってくるところもある」
ありのままの自分を受け入れて、3度目のタイトルにたどり着いた村上が、今年も年末のグランプリシートを獲得した。
「グランプリっていうのを目標でやってるんで、出場できることはうれしい。でも、目標を見失わんように。まだ今は考えられないですけど、新たな目標をもって、今以上に競輪を研究して、努力していきたい」
3番手の清水のまくりを許さなかった三谷竜生の先行力こそが、村上Vの何よりの要因。三谷は冷静に口を開く。
「小松崎(大地)さんがあの位置で粘ったんで、自分の行けるタイミングで行っただけ。最後はキツかったけど、2着に粘れているんで内容的には悪くなかった」
最終2センターから踏み込んだ清水裕友は、前の2人を交わすことができなかった。
「(粘られたのは)しょうがなかった。(最終)2コーナーで一瞬、詰まったけど、そこを見てしまった。バックでも見て…。三谷さんが掛かっていたので、(まくりに)行っても多分無理だったと思う」
作戦通り前団に構えた小松崎大地は、上昇した清水の番手でイン粘り。清水後位を奪取して、横一線の2着争いに加わったものの4着。
「前が取れたし、立ち回りは良かったと思う。あとは勝負どころでの仕掛けですね。(清水よりも)先に行くのかっていうところ。そうしないと(優勝は)ないですから」