繰り上がりの中本匠栄がビッグ初V
「うれしいよりもヒデさんの失格の方が大きいですね」
九州ラインの番手で奮闘した山田英明が、1位入線も失格。繰り上がりでのビッグ初制覇に心根のやさしい中本匠栄は、自身の優勝よりも山田を気遣う。自動番組編成によるオール予選の今シリーズ。その一次予選は先輩の山田がラインの先頭を務めて、中本は後ろを回った。7月別府F1での落車で鎖骨骨折を負い、体力、脚力の戻り切らない中本の苦渋の選択でもあった。
「初日にヒデさんの後ろを回らせてもらって、九州の先輩、後輩に助けられて、ここ(表彰台)に立っている。次はしっかり笑って、ここに立てるように頑張っていきたい」
新田祐大、脇本雄太、松浦悠士のS級S班をはじめ、5人が単騎になった決勝。唯一ラインができた九州勢は4人で結束。一番若い山崎賢人が前受けからレースを支配して、単騎の選手にプレッシャーをかけた。赤板手前から9番手の脇本がさすがのスピードで迫ったが、山田、中本のブロックで外に浮いて最終ホーム過ぎで力尽き後退。今度は松浦、新田が襲い掛かると山田が番手まくりで応戦。2センターで山田が新田を張ったところで、新田の後輪に接触した吉澤純平が落車。山田が審議対象にあがった。
「(九州勢の)3番手を回ってヒデさんのサポートって考えてました。(サポートっていう)思いが強かった」
落車のアクシデントもあって、内を締めていた中本は山田に続いて2番目でゴール線を駆け抜けた。判定の結果、山田が失格。昨年3月のウィナーズカップで初めてビッグの舞台にあがった中本は、予想だにしなかった繰り上がりでのビッグ初制覇となった。
「ヒデさんの失格があったけど、九州のラインとしては一番いい形でいけたんじゃないかと、(レースが終わったあと)ヒデさんと話しました。正直なところ、本当に(優勝の)実感がないですね」
17年の9月21日。ちょうど3年前の伊東F1の最終日に落車に見舞われた中本は、第5頸椎を骨折する大怪我を負った。翌年の復帰まで4カ月以上の時間を必要とした。
「ここに来る前までは怪我のイメージが強くて、(伊東は)苦手意識がありました。正直、走りたくないっていうのもあったけど、こうやって共同通信社杯を走れるチャンスをいただいた。またヒデさんに任せてもらえるように脚力を戻していきます。期待される以上は、しっかり確定板を意識して勝てるように。そしてまた先輩たちに任せてもらえた時は、しっかり役目を果たせるようにしたいです。怪我からの復帰の仕方だったり、練習方法だったり、いろいろ周りに聞いたりして、ここまでたどり着いたと思うんで、練習仲間の先輩、後輩に感謝したいです」
3年ぶりとなる伊東で舞い降りたビッグ初V。落車の怪我に泣き、闘ってきた中本にとって、9月21日は忘れられない日となろう。
最終1コーナーからまくり上げた松浦悠士は、山田に合わされたものの外を粘り強く踏んで2着に入った。
「いい感じで(脇本雄太に)スイッチできたんですけどね。行ってくれって感じでしたけど後退したのでもう行くしかなかった。当たってはないですけど(中本)匠栄に張られたのがキツかったですね。ヒデ(山田)さんの一発は想定外でしたけど、あきらめずに踏んで良かった。最後に園田(匠)さんにも伸び勝っているので」
九州ラインの4番手を固めた園田匠が3着に。
「(山崎)賢人が頑張ってくれましたね。しっかりレースの形を作ってくれた。(最終)2センターでヒデがもっていった時に、自分が先に踏むわけにはいかないと思って待ちました。その分、最後に松浦に伸び負けた。2着なら完璧でしたけどね…。匠栄も怪我で苦しんでいたし、いつも頑張ってくれていたので良かったです」
山田をとらえ切るスピードだった新田祐大だが、強烈なブロックとアクシデントで失速の4着。
「あの展開になったので、脇本君が先に仕掛けると思いました。松浦君が先に仕掛けたあと、もうワンテンポ待って仕掛ければ良かった。止まってしまうところで、(松浦と)絡んでしまいました」