脇本雄太が5度目のG1制覇
10年7月、ここ前橋の寬仁親王牌でG1初出場でいきなりのファイナル進出。レースを支配した決勝では、同県の市田佳寿浩(76期、引退)に初のタイトルをもたらし、歓喜の渦に包まれた。あれから10年の歳月が流れ、16年にはリオデジャネイロ五輪も経験した脇本雄太は、周囲の想像を超える進化で逃走劇を完結させた。
「今回は自分にゆかりのあるG1を先行で優勝できて本当にうれしい」
シリーズを4戦3勝。唯一、負けた2日目の「ローズカップ」は単騎。前回の共同通信社杯も無傷の3連勝で決勝に進みながら、単騎で7着に敗れていただけに、ラインでの勝ち上がりをテーマに掲げていた。
「(初日のレースは)悪くないんですけども、これだとまたラインを引き連れて決勝に上がれない。だから、もう少し考える必要がある。自分が優勝するためには、まずは味方を作っていかないといけないので、課題は残っているのかなと思います」と、初日を振り返り、準決で東口善朋とのワンツーにつなげた。
共同通信社杯同様、脇本とともに来年の東京五輪代表に内定している新田祐大とのライバル対決に注目が集まった。8番手で仕掛けるタイミングをうかがっていた脇本の視界には、6番手の新田の姿がはっきりと映っていた。
「新田さんの動きがどこかなと、自分は思っていた。新田さんが車間を切ってけん制を入れて、かなり僕の動きを注意している感じだった。そこの勝負に負けないようにと思っていました」
赤板手前で脇本が踏むと、それを察知した新田も合わせて踏む。しかしながら、脇本は新田を乗り越えて2コーナーで先頭に立つ。脇本ラインを追うように新田が3番手に入っても、さらにギアを上げて加速する脇本に不安はなかった。
「踏み出した時に新田さんよりも前に出れたっていうのが、すごい自信になった。そこからは自分で2周踏めるなという感じになっていました」
“先行日本一”。誰よりも強く先行でのタイトル獲りにこだわってきたそのスタイルは、輪界ナンバーワンの称号を得ても変わることはなかった。
「先行逃げ切りで優勝できたってことはうれしい。先行ってことにこだわっていたので、それが達成できて良かったです」
東口を連れて逃げる脇本に迫れるのは、新田だけだった。4手以下は脇本が作り出したスピードに付いていけず圏外。そして新田でさえも、脇本を脅かすことができず、脇本がそのまま先頭でゴールを駆け抜けた。
「オリンピックが延期になったことについては、落ち込むところもありましたけど、しっかり持ち直して来年につなげられるのかなと。東京オリンピックが延期になってしまったので、今年はグランプリで優勝するつもりでしっかり挑みたいなと思っています。(今後も競輪に)出場できる回数は限られていますけど、一戦、一戦自分らしいレースで走ってお客さんにアピールしていきたい」
新型コロナウイルス感染症の影響で来年に延期された東京五輪。スケジュールの変更を余儀なくされた脇本だが、グランプリ制覇をモチベーションにして輪界最強をアピールしていく。
グランドスラムに王手の新田祐大だったが、脇本を交わせず2着に敗れた。
「初手の位置があの状態になったら、この展開になるだろうなっていうのはあった。脇本君に対して警戒を強めすぎた。昨日(3日目)と同じ位置から仕掛けていれば力勝負できたと思うけど、見てしまった。一番伸びない位置から仕掛けてあそこまで行けたんで、タイミングでした…」
脇本マークの東口善朋は、最終3コーナーまで踏ん張ったもののそこからから徐々に離されて3着。
「とにかくもう他のラインは脇本の番手か3番手を狙っているかと思っていたので、脇本の後ろに集中していた。昨日(3日目)いいピッチで踏んで付いていて何とかなるかなと思ったけど、今日(最終日)はギアが1個上がりましたね。最終バックではビリビリした。これをいい経験値として上積みをしていきたい。これからも後ろに強く(脇本後位を)主張していきたい」