G1初優出でビッグタイトルを制覇
「信じられないですね。正直、自分が一番、驚いている」
初めてのG1ファイナルの舞台は、3月のウィナーズカップ(清水裕友)、5月のダービー(松浦悠士)とビッグを連続で制覇している中国地区のS級S班コンビ、数多のG1で歴史を刻んできた佐藤慎太郎ら、そうそうたるメンバー。吉田拓矢が準決3着でファイナルに滑り込んで頼もしい目標を得たものの、優勝のイメージすらわいてこなかったのは、宿口陽一の率直な気持ちだろう。
「(獲れる予感のようなもの)まったくそういうのはなかったです。まさかこのメンバーで勝てると思ってなかったし、決勝にも乗れると思ってなかった」
それでも吉田との立てたレースプランは、思いほのか順調に進んだ。清水を連れた松浦が先頭に立つが、北日本勢が抵抗して、さらに単騎の山崎賢人が、中国勢に襲い掛かる。最終1コーナーで山崎の仕掛けに吉田が反応して、関東勢にもチャンスが生まれた。
「吉田君と考えてた通りの形になった。あとは吉田君が行けるか行けないかの勝負だったんですけど、すごい出足も良くて、最後は無我夢中でした」
番手まくりを打った清水と山崎での踏み合い。その上を追い込む吉田に乗った宿口が外を突き抜けた。
「(ゴール線では吉田より)僕の方がちょっと車輪が出てたので、それはわかったんですけど。そうですね、すごいうれしいですね」
初めてのG1ファイナル、初めてのゴールでの景色で前を遮るものはなかった。
今シリーズは練習仲間でもある平原康多が、練習中の怪我により急きょ欠場を余儀なくされた。平原の抜けた穴をすべて埋めることはできないが、関東が一丸となってシリーズを戦った。
「平原さんがいないG1なんて、いままで経験したことがなかった。もちろんわかってはいたことですけど、改めて存在感というか大黒柱がいないってこういうことかって。前検日からなんかこうフワフワするっていうか、いつもと違う感じでした。平原さん自身が一番悔しい思いをしてると思った。その分までとはいかないんですけど、自分も平原さんの分まで頑張ろうと思ってたんで、いい報告ができそうです」
デビュー15年でG3の優出が5度で、まだ優勝経験はない。ビッグでの決勝進出も今シリーズが初めてで、G2、3の優勝を飛び越えてタイトルホルダーの仲間入りを果たした。
「(グランプリ出場が決まっても)自分はまだそういう選手じゃないので、また一から、1つ1つレースをちゃんと。年末(のグランプリ)をそういう風に迎えられたら一番いいかなって思っています。G1を優勝できたってことで、自分が掲げてきた目標も達成できた。これから周りの目線とかも変わってくると思うんですけど、僕は変わらず1つ1つレースをこなしていって頑張っていけたらいいなと」
練習仲間とともにグランプリの舞台に。平原より先に初のグランプリチケットを手にした宿口の思いが、復帰する平原のモチベショーンになることは間違いない。
17年2月に平原が優勝した全日本選抜以来となる関東勢のタイトル奪取。その大きな原動力となったのが吉田拓矢だ。単騎の山崎のロングまくりに続いて、追い込み勝負で2着に入った。
「関東に久しぶりにG1(優勝)をもってこられた。ラインで決まったのがうれしいですね。山崎さんが行ったんでスイッチした。(最終)ホームではいっぱいだったんですけど、無理やりだった。(G1決勝の)独特の緊張感でうまく脚が回らなかった。けど、僕も2着に入ったんでプラスになりますね」
北日本ライン3番手の守澤太志は、最終バックでは9番手。しかしながら、直線で外を強襲して3着に届いた。
「ずっと併走が長引いて(佐藤)慎太郎さんも稲川(翔)君にからまれていて難しかったですね。(最終)3コーナーから外を踏んだんですけど、僕が一番スピードをもらえないところから踏んだのでキツかったですね。良く伸びた方だと思います」
初手の位置取りを見極めて中国勢の後ろに照準を絞った地元の稲川翔だったが7着に終わった。
「(清水)裕友が出ていって、松浦と接触したのが自分の甘さ。あそこで勝負権を失ってしまった。こういう(近畿が)1人の時に結果を出さないと。いつもラインに助けられているんで。全部、言い訳になりますし、全部、自分のせいです…」