山口拳矢が地元でビッグ初制覇
「無観客で静かだったんで、(ゴール後に)手を挙げちゃったけど。(優勝したのは)本当に自分かなって不安になりました(笑)」
こう言ってはにかんだ山口拳矢は、まだデビューから1年4カ月足らずの25歳。歴戦のS級S班らを向こうに回して、単騎で大仕事をやってのけた。
今シリーズを含めてビッグの出場回数は通算で5回目。7月のサマーナイトフェスティバルではあわやのゴール勝負を演じて準V。8月のオールスターでは、4着で準決敗退も手応えをつかんでいた。
「オールスターで前々に動いて、決勝まではいけなかったですけど自分のなかで収穫があった。ビッグでも臆せずいけるっていう自信にはなりました」
11年のオールスター以来、10年ぶりとなる岐阜でのビッグ開催だったが、気がつけば準決の27人のなかで中部勢は山口ただひとりだった。「昨日は眠れなかった」と、2日目に振り返ったように、プレッシャーも日に日に増していった。ただ、そのなかで“確固たる自分”をもって、レースに集中した。
「準決からは中部が1人になって、自分が思っているよりもプレッシャーがあった。でも、二次予選からは修正できて、自分にツキが回ってきているって思う部分もあったので、運が良かった」
先行策に出た一次予選だったが、ラインの援護を失い4着に沈んだ。内容的には悪くなかったものの、二次予選B回りを余儀なくされた2日目からは勝負に徹する走りで3連勝。2日目にはバンクレコードタイの上がりを叩き出し、リズムを取り戻してビッグ初制覇につなげた。
単騎の決勝は山口も予想していた通り、3車の北日本勢が主導権。清水裕友、郡司浩平がアグレッシブに攻めて、7番手に置かれた山口は動じることなくワンチャンスにかけた。
「新山(響平)さんが主導権を取ると思ってたので、自分のチャンスが来るのを待ってと。思ったよりも脚を使わずに詰まってきたので、ここで仕掛けてダメならしょうがないっていう気持ちで行きました」
抜群のスピードで前団に迫った。が、逃げる新山の番手には、東京五輪にも出場した新田祐大が脚力を温存して反撃に備えていた。
「(新田より)自分の方がちょっと前に出られたので、あとは4コーナー下ってから勝負だなって思いました。最後まで気持ちで踏みました」
新田に体を合わされながらも、山口のスピードが衰えることはなく先頭でゴールを駆け抜けた。深谷知広がもっていた従来の524日を更新するデビューから479日での最速のビッグ制覇だった。
「(獲得賞金では)やっとスタートに立ったじゃないですけど、いい勝負ができるところまできたかなと思います。年末まで気を抜かずにいきたいと思います。(今後は)ビッグももちろん寛仁親王牌とかあるんですけど、F1も取りこぼさないように一戦、一戦しっかりやっていきたい」
共同通信社杯の優勝賞金で大きくジャンプアップした獲得賞金ランクは8位。ヤンググランプリをスルーして、獲得賞金でのグランプリ出場も視界に入ってきた。次に型破りのスピードスターが狙うのは、寬仁親王牌での最速G1優勝だろう。
一度は上昇を試みた平原康多だったが、それを阻まれて打鐘では8番手。山口のまくりに乗って2着には入ったが、内容としては不本意だったに違いない。
「最悪な展開になってしまった。でも、山口君が行ってくれたので乗っていけたんですけど、脚を使っていたので抜けなかった。あおりも見ながらでしたし、抜けなかった。悔しいですね。今日は動いてちゃんと位置も取れなかったですし、最後も差せなかった。いろいろと悔しい」
4番手外併走の郡司は、最終2コーナーで清水に張られて後退。鈴木裕はコースを探しながら伸びた。
「全開で踏んだんですけど、ジャンで離れてしまいました。清水君に内に来られてしまった。(最終)2コーナーで入れてあげられなかったのは反省点ですね…。清水君が外なら内だって思っていたんですけど、内に行った。でも、平原さんと守澤(太志)君の真ん中で当たられないようにでした」
新山響平が主導権を握り、北日本ラインは3番手の守澤まで出切る。新田祐大にとっては願ってもない展開だったが…。
「新山君が主導権を取ってくれたんですけど、難しくなってしまった。郡司君も止まったように見えたし、新山君も掛かっていた。その辺の判断が甘かった」