荒井崇が地元で鬼に
19年4月武雄記念以来、16回目となるG3制覇。九州別線で戦う以上、地元の意地がある荒井崇博にとっては決して負けられない戦いとなった。
「ハラケン(原田)に獲られる分には、『まぁしょうがない、強かったけんね』って片付けられても、熊本勢には絶対に勝ちたかったけん」
初手の位置取りからレース展開まで、荒井が思い描いていたイメージ通りによどみなく進んだ。
「あの位置が欲しかったけん。あの位置しかなかとでしょ。ハラケンがインを切って熊本勢をださせれば、その外に追い上げてからまくってやろうと。でも坂本貴史が突っ張ったけんね。いい方、いい方って流れたね。理想を言えばもっと(上田の)ハコでもつれてくれればもっと良かったけどね。貴史と脚を削りあって4番手を取るよりもサラ脚で6番手の方がいいっしょ」
上田尭弥の番手で車間を空けて待ち構えていた松岡辰泰。二段駆けも可能な若手の熊本勢にも怯むことなく、力いっぱいペダルを踏み込んだ。
「出たね(笑)。天才かって思った(笑)。あそこから仕掛けて二段駆けをされて9着でも自分もお客さんも納得するでしょ? ハラケンにその上をいかれたとしても仕方ないけんさ。でもすげー出たね(笑)」
レース後に一緒に決勝のVTRを熊本勢と見ながら振り返る。敵同士で戦ったがレースが終われば九州地区のかわいい後輩に声をかけた。
「俺のまくりが11秒4でお前(松岡辰泰)が11秒7やろ? もっとタイミング良くハコから出とったら俺は行けてなかったかもしれんけん。勝つなら並ばれちゃいかんよ? あそこで迷ったらいけんよ」
地元G3にはめっぽう強い荒井が、昨年と今年の開設記念ではまさかの二次予選敗退。今回は開設記念ではなかったが4月の『大楠賞争奪戦』の悔しさをしっかりと晴らして笑顔を見せる。
「こうなったら初日が悔やまれるよね。どうせなら4連勝したかった。でもまぁ良かったね」
今年でデビュー22年目。年齢も43歳とベテランの域に達しているが、脚力も闘志も決して衰えない。
「(中川)誠一郎には負けたくないけん。(井上)昌己と誠一郎が強いうちは自分も落ちれんよね。もうちょっと頑張ろうかな。(500勝まで)あと24勝よね? カントダウンしときますわ(笑)」
昨年は10勝に留まったが、今年はこれで24勝目と破竹の勢いで白星を量産中。ライバルの存在がこれからも突き動かす。
準優勝の松岡辰は頼れる同県の上田に前を託し、先輩の松岡貴久が後ろをがっちりと固めてもらい挑んだ初めてのG3決勝の舞台。ゴール寸前で逃してしまった悔しさは計り知れない。
「情けないっすね…。ガルちゃん(上田)が勢いよくいってくれたし、いいスピードだった。荒井さんも来ていたけど、3コーナーで並べれば自分が内だしいけるかなって思ったんですけど…。荒井さんが強すぎましたね…。本当に悔しい。頑張ってくれたガルちゃんに申し訳ないです。判断ミスですね…。もう少し腹を括って出ていかないとダメでしたね。今日は悔しい気持ちの方が大きいです」
3着には地元の荒井に前を託した五十嵐力が入線。今シリーズは手応えを感じながらも課題を掲げる。
「相手も番手まくりだったのでどうかなって思いながら後ろで見ていましたけど、スピードが良かったですね。最後はちょっと難しい判断でした。センターでは余裕がありましたけど4コーナーは難しかった。うまい追い込み選手なら迷わず荒井さんの内へ行けているんでしょうけど、自分はやっぱりうまくないので外へいってしまいました。前が1着ですし、自分はしっかり2着に入りたかったですけど…。その辺ですよね。脚の感じは良くなってきていますけど、細かいところを磨いていかないと」