夏の終わりのひとり旅
レースが動き始めたばかりの青板の2センターで、予想だにしないアクシデントが襲った。深谷知広の後輪に接触した田中晴基が落車。赤板手前では混乱ぶりをあらわすように別線の隊列も乱れた。ラインを失った深谷が誰よりも動揺していたはずだったが、冷静に後方でワンチャンスにかけた。
「(スタートで)郡司(浩平)が後ろにこだわった。(地元勢は)切って自分たち待ちかなと。(そしたらフタをされたんで)想定外だった。それで(田中)晴基さんと呼吸が合わなかった。そこが残念ですね。(田中と接触した)衝撃が結構あったんで、自転車が大丈夫かなって確認した」
単騎の清水裕友が先頭に立つ。郡司は自身の態勢を整えながら、ラインを確かめてペースは上がらない。赤板2コーナー。踏み込んだ深谷に迷いはなかった。
「(赤板の)ホーム線くらいで(先行の)覚悟をもってた。前団がけん制してたんで、ここがチャンスかなと。全開で行きました」
スピードに乗った深谷は、打鐘ではすでに清水を大きく離してグングンと加速。最終ホームではすでにセーフティーリードに思われたが、深谷に確信はなかった。
「手ごたえとしてはカマし切った感じだったんですけど、メンバーがメンバーなんで、もう誰も来ないでくれって」
清水の後ろにいた深谷と別線の郡司が最終2コーナー過ぎから踏み込むが、深谷は遥かに前。まくりで猛追したが、郡司をもってしてもその差は7車身。深谷のひとり旅で、夏の小田原記念は幕が閉じた。
「先行して逃げ切れているので、落車がなければ、100点満点ですね。落車があったので複雑な思いもあるけど、優勝できて良かったです。トレーニングのスケジュール自体は(11月の)競輪祭に向けて組んでいます。(グランプリ出場も)まったく圏外というわけではないので、しっかり頑張りたい」
久々の記念Vの優勝賞金を上積みして、賞金ランクも12位(決勝終了時点)にアップ。5年ぶりとなる6度目のグランプリ出場も視界に入ってきた。
4車の地元ラインの先頭を務めた郡司浩平は、単騎の清水を警戒して仕掛けのタイミングをうかがっていたその間隙を突かれた。離れながら追いかける清水の余力を見極めて最終2コーナー過ぎからまくったが、深谷を追い詰めることはできなかった。
「清水もフワッと前に出た。普通に切りにいったら粘るかなと。(和田)真久留も内に差してたんで、飛び付かれないようにカマして行こうと思ってたら(深谷にカマされた)。清水も追いかけたんで、(最終)ホームですかさず行けるスピードじゃなかった。あらためて深谷さんの強さを痛感しました。後ろには迷惑を掛けてしまいました」
真横で落車が起きた和田真久留は、「僕が乗り上げかけて、あれで半分以上脚を使った」と、間一髪でアクシデント避けて郡司と再連結。3着に入った。
「早い段階で(郡司)浩平が出ていれば、深谷さんの番手にはまって優勝争いができてかもしれない。でも、深谷さんは1人になったんで、構えてくれるかなっていうのがあったんじゃないかなと…」