番手でつかんだ記念初V
「獲れる感じが1つもしなかった。いまのグレードレースを獲るのは厳しいし、獲れたらいいなっていう夢がかないました。奇跡みたいな感じです」
“ポーカーフェイス”。いつもはあまり感情を表に出さない佐々木悠葵から、自然と笑みがこぼれた。
全員が機動力を有している関東勢だけに、別線の選択肢もあっただろう。4番手を固めたS級S班の宿口陽一、3番手の吉澤純平は、佐々木の胸の内を確認して、眞杉匠を先頭に一丸となった。
「まとまりたいっていう気持ちもあった。それで任せてもらえました」
それまでの3回のG3決勝では、昨年の宇都宮が関東別線、小松島記念では関東からただ一人の優出。そして今年10月の京王閣記念では、関東が8人決勝に。佐々木は単騎での戦いを強いられた。それだけに4車での結束は、期するものがあっただろう。
6番手で態勢を整えた眞杉匠は、赤板2コーナー手前から近畿勢に襲い掛かる。ラインを気遣う仕掛けで、からまれた宿口まで最終ホームでは4人が出切った。
「(眞杉は)G1で活躍している選手ですし、ダッシュもすごかった。稲川(翔)さんに自分のところを狙われてやられても、そこはやり返すつもりでいました」
最終ホームで勝負が決したかに思われたが、今度は稲川が切り替えてまくりに転じた。
「(稲川が)来ているのがわかった。ちょっと踏んだら止まった。あとは眞杉君が頑張って踏んでくれているんで、残れるようにっていう気持ちでした」
稲川が真後ろに迫っても、肝の据わった運行。後続との間合いを計りながら、落ち着いて抜け出した。
「前は弱気だった。気持ちが一番ですね。怪我とかで自転車の乗り方がわからなくなっていたけど、寬仁親王牌辺りからどっしりと乗れるようになった。(優勝は)ラインのおかげ。結束していただいた関東の先輩方に恩返しができるように、もっと脚をつけていきたい」
現状での今年の配分は、12月15日からの静岡F1を残すのみ。新年は1月4日からの立川記念で幕を開ける。
「いままでG1は準決が最高なんで、(来年は)決勝に上がれるように。先行もできて、なんでもできるのを売りにしていきたい」
競輪学校時代からその類まれな身体能力には定評があった佐々木が、開花のキッカケになりそうなG3初V。師走に今年の初優勝を飾った。
関東3番手の吉澤純平は、最終3コーナーでまくった稲川との併走。外にコースはなく、眞杉と佐々木の間を踏んで2着。
「初日のこともあったんで、(眞杉が)降りないで踏んでくれた。自分と(宿口)陽一は助かった。眞杉君が(ラインで)出切れるように踏んでくれたし、最低限しっかりと付いていってと。イナショウ(稲川)のところだけは耐えてでしたね。自分はあれが精いっぱい。佐々木君が勝ってくれたんで良かった」
3着までを関東勢が独占。別線を凌駕するスピードで先行策に出た眞杉匠の尽力があってこそだったのは言うまでもない。
「(稲毛健太は)1回、脚を使ってから、(自分たちを)突っ張り切るのは難しいだろうし。前受けからの全突っ張りだと、自分が着に残るのは厳しいかなと。うまく回せて、最終日が一番良かった。重いなかで回せていたんで、(もっと早めに別線が来ても)踏み直せるくらいのペースでした。(今シリーズは)急な追加のなかで、合わせられたかなと思いました」