G1初ファイナルで戴冠
ゴールした瞬間、とらえた手ごたえはあった。ただ、最後まで冷静だった。山口拳矢が優勝を確認するまでに半周の時間を要した。
「最後は(清水裕友を)差したかなって思ったけど。勘違いのガッツポーズは恥ずかしいんで(笑)。モニターに(自分の姿)が抜かれた時に確信しました」
ゴール後のバック付近では右手を高々と挙げて、人差し指を立ててナンバーワンをアピールした。
「ちょっと信じられない気持ちが大きい。自分がG1で優勝できた衝撃が大きすぎて、感動とか、自分の感情が追いついてないですね」
デビューから約2年11カ月でのタイトル獲得。初めてのG1ファイナルのキップをつかんだ今シリーズだったが、予感めいたものはあった。
「なんとなくですけど、(一昨年9月に優勝した)共同通信社杯の時みたいに、イケそうな。ただの予感ですけど、そんな感じがした」
自身の直感を信じながらも、あくまでも立ち回りはスマートだった。中四国勢が主導権を握り、脇本雄太は大方の予想通り後方。単騎の山口は、北日本勢を後ろにおく4番手を選択した。
「あの並びになった時点で犬伏(湧也)君が主導権を握るかなと。その後ろから(清水)裕友さんも出ていくタイミングがうまい。そこを見てからと思ってました」
逃げる犬伏との車間を詰める勢いで、清水が最終2コーナー過ぎから番手まくり。清水、香川雄介の2人を射程に入れて外に持ち出した山口だったが、切り替えた佐藤慎太郎の中割りで内側から当たられた。
「裕友さんが出ていったのが見えた。あとはかぶる前にと。意外と踏んだ感触が良くて、いいところまでいけるかなと。そしたら(佐藤)慎太郎さんに当たられてスリップしたんでどうかなと」
外に膨れてポジションを落とした山口は、直線の入口は外の4番手。しかしながら、態勢を立て直して踏み込むと、目の覚めるような伸びで突き抜けた。
「(父の山口幸二が98年にオールスターを優勝したのが)30歳だったんで、自分もそれまでにと思っていた。それが達成できて良かった」
父、山口幸二(62期、引退)よりも早い20代でのタイトル奪取。しかしながら、山口幸二は98年、11年と2度のグランプリ制覇。父子でのG1制覇を遂げた山口にとっては、初となる父子でのグランプリVも視界に入ってきている。
「グランプリ(出場)が確定したんで、そこを優勝できたら一番いいですね。でも、あんまり目標が先すぎても、計画を立てるタイプではない。F1もそうですけど、走りながらうまいこと調子を維持できたらいいのかなと」
11年に父がグランプリを獲った思い出の平塚でダービー王に輝いた。今年、年末のグランプリの舞台は立川。98年に父がグランプリを制した立川での親子二代制覇の偉業も、山口なら難しいことではないように思える。
脇本は前が遠く、清水裕友が番手まくりを打って、新山は最終3コーナーで後退。20年の全日本選抜以来のG1奪取かに思われた清水だったが、ゴール寸前で山口につかまった。
「犬伏君があれだけいってくれたのに、僕が優勝できなかった。申し訳ないですね。(犬伏が)強かったですし、あれだけ、あんなに頑張ってくれたのに…。正直、もういっぱいでしたね。なかなか影は見えなかったんですけど。最後の最後にやられましたね。チャンスをモノにできなかったんで。悔しいですね」
新山のまくりが止まり、佐藤慎太郎は最終3コーナーから切り替えて中のコースを踏む。Vロードが見えたものの、3着が精いっぱい。
「やっぱり(清水)裕友も強かったですし、犬伏君も掛かりが良かったですね。(新山)響平も勝ちにいくなら、あの形になりますよね。あのコースなら脚があれば優勝まであったと思いますし、余裕がなかったですね。もう101パーセントの力で突っ込んでいっている。あそこからもう一歩踏めるようになれれば優勝もあったのかな。でも、力を出し切れなかった悔しさじゃなくて、出し切った上での悔しさ。次のモチベーションになりますね」