仲間の支えで地元記念初制覇
ゴールを先頭で駆け抜けた吉田拓矢が、右の拳をいまにも雨が降り出しそうな鉛色の空を突き破るように上げた。
「去年、眞杉(匠)のために頑張って、あっ旋が止まったけど。決してマイナスではなかったと思います。また、この舞台に戻りたい気持ちで、ダービー(日本選手権)も決勝に乗れたし、地元記念も優勝できた」
昨年8月のオールスター決勝では、吉田がラインの先頭を務めて眞杉の初戴冠に貢献した。が、暴走失格の憂き目をみて、結果、およそ4カ月を棒に振った。仲間のために戦線離脱を余儀なくされた吉田を救ったのも仲間だった。
「ここまで来られたのは先輩、後輩、仲間のおかげ。感謝の心を忘れずにこれからも精進していきたい」
決勝に大挙5人が勝ち上がってきた関東は、一枚岩で結束。準決では上がりタイムでバンクレコードタイを叩き出した脇本雄太に山口拳矢が付くSSコンビに“絆”で対抗した。レースは8番手の脇本の仕掛けを待たずに、小林泰正が赤板1コーナーから加速。反撃の隙を与えることなく駆けて、最終ホームから坂井洋が番手発進。守澤太志がインをついて、そのあおりで大きく外に振られた脇本は万事休す。しかしながら、守澤が吉田の後ろの吉澤純平をさばいて奪取。さらに不発の脇本から切り替えてまくった山口拳矢も襲い掛かった。
「タツさん(芦澤辰弘)がスタートを取ってくれて、(小林)泰正さんがどのラインも出させない気持ちで駆けてくれて、ああやって展開ができた。ビジョンを見たら守澤さんが内に来て、(坂井)洋さんが踏んだ時に入ってきていた。(吉澤)純平さん、タツさんに勝負権がなくて申し訳なかった」
慌てることなく間合いを取った吉田が、番手まくりの坂井を2センターから追い込んでV。デビューイヤーの15年8月チャレンジ以来なかった地元優勝を記念で飾った。
「感無量ですね。(地元記念を獲る)チャンスは何度かあったけど、優勝に届かなかった。地元記念を優勝することを目標にしてきたのでうれしい。(ビッグでは)良かったり、悪かったり、その差をなくしていきたい。自分自身、まだ力が及ばないところがあるので頑張っていきたい」
地元記念は通過点。8月のオールスターで昨年のリベンジを果たして、21年以来のタイトル奪取。それこそが、自身の青写真であり、関東の仲間たちの願いでもある。
周回中は関東勢の後ろの6番手から運んだ守澤太志は、たまらず打鐘4コーナーで切り込んで芦澤をさばく。坂井が番手まくりに出て、今度は吉澤から吉田後位を奪って2着に入った。
「本当は外から行く予定だった。前(芦澤)がフワフワしていて、ずっと(内が)空いていた。地元だから(内から追い上げに)行きたくなかったけど、もう(最終)ホームだったし。そのあとは何車すくっても一緒。純平さんには申し訳なかったけど、(吉澤を弾いたあとに)ヨシタク(吉田)がそのまま出ていった。最後は脚がなかったけど、感触は悪くなかった。今年一番良かった」
後方からようやく反撃に出た脇本だったが、最終1センターのあおりで大きく外に膨らむ。山口拳矢は脇本の内に進路を取って、2コーナーから山降ろしで強襲。好スピードで3着に届いた。
「(脇本は)単騎よりは前で進めたいっていう感じだった。自分はもう脇本さんの後輪だけを見ていたんですけど、あそこまで上にいくと思わなかった。それで切り込む形になった。結果的にはそれが良かったかのかもしれない。(最終)3コーナーに入るまでは(優勝が)あるかもって思ったけど、乗り越える力がなかった。(脇本の後ろで)過去イチくらいピリッとした。顔見せから緊張しました。でも、踏めていたし伸びていた」