盟友とのタッグで2度目のG1制覇
吉田拓矢
「まだ実感がわかないですね、眞杉(匠)に感謝しかない、本当に」
単騎で初めてタイトルを獲得した21年11月の競輪祭から、3年半の歳月が過ぎていた。107期として15年にデビュー。若手として関東を引っ張ってきた吉田拓矢だったが、気がつけば30歳の節目のバースデーを3日後に控えるまでになっていた。一昨年のオールスターでは、眞杉をタイトルホルダーに導く積極策も、暴走により失格。ペナルティとして4カ月の戦線離脱の苦汁もなめた。
「(一昨年のオールスターの)あれから眞杉もずっと僕のことを気にかけてくれていた」
その年は、オールスターに次いで、競輪祭も奪取した眞杉にも、どこかスッキリしない気持ちがあった。それだけにG1ファイナルで初めてのワンツー劇は、互いに胸のつかえが取れた思いだろう。
レースは、北日本勢が前団を占めて、新山響平が突っ張り先行。単騎の古性優作が4番手を確保して、眞杉は5番手で前との間合いを取る。先行態勢の新山は、最終ホームからペースを上げて駆ける。
「スタートも全部、眞杉がやってくれた。自分は付いていくだけだった。(新山は)すごいピッチだった。でも、眞杉が車間を空けていたので、これは一気に行くんだろうなと。そこだけ離れないように集中して、(眞杉の)車輪だけを見ていました」
詰める勢いで、眞杉が最終バック付近から前団に襲い掛かる。3コーナー過ぎに古性の横を通過した吉田は冷静だった。
「(眞杉は)結構、空けていて、これは行けるのかなって思ったんですけど、強かったですね。自分は3コーナーの登りだったんで、なるべく外を踏んだ。掛かりがすごかったんで、そんなにみんな横に動く雰囲気でもなかった」
直線の入口で前団をのみ込んだ眞杉だったが、後輪が菅田壱道と接触。吉田が眞杉を交わして2人で上位入線も、菅田の落車で眞杉は審議対象。自身のG1制覇よりも、盟友のことが気がかりだった。
「眞杉が締めているのがわかった。落車があって眞杉が失格だったら、また(自分が失格した)オールスターの時みたいな感じになっちゃうと。それだけは嫌だと思って、自分の確定より眞杉が失格してないかが気になりました」
セーフ判定で眞杉とのワンツーが結実。これ以上ない2度目のG1優勝になった。
「(競輪祭を獲った)前回は忘れちゃいました(笑)。(眞杉は)全日本選抜も頑張ってくれたし、今日(決勝)も勝負権があるところまで連れていってくれた。仲間に助けられて勝った。うれしいですね」
単騎だったG1初優勝を忘れるはずもなく、吉田はこう振り返った。眞杉は2月全日本選抜の決勝でも、吉田を連れて先行策。その気持ちに結果で応えることはできなかったが、関係性はより深まっていった。
「(眞杉とは)本当に、上下関係がないような。向こうもなんでも話してくれるし、そういう間柄ですね。今回、獲らせてもらったんで、こういう前後で走れるように、僕がもっと強くならないといけない。自信をもって眞杉の前を回れるようにならないといけない」
かつての平原康多、武田豊樹がそうであったように。2人が流れを受け継いで、関東を盛り上げていく。
5番手まくりの眞杉匠は、菅田との接触でスピードが鈍ったが2着。
「(接触して)ブレーキがかかりました。(吉田との)ワンツーはうれしいけど、あの展開をモノにできずに悔しい。あれで一気に止まってしまった。でも、本当に(吉田)拓矢さんに獲らせてもらったから、いまがあるんで、そこは良かった」
すんなり4番手の古性優作だったが、仕掛けられず最後はアクシデントを避けて3着。「めっちゃ迷いました」と、言うように、逡巡しながらのレースになった。
「ジャンで菅田さんのところに追い上げるか。(阿部)力也さんとハウス(接触)して、新山君が駆けていった。それで口が空いて結構、脚にきた。ふさわしくないっすね。日本選手権に。力不足です。年々、キツくなってきています。まだまだ3歩、4歩、5歩、ちょっとじゃない差がある」