不撓不屈・ボスの自転車人生

不撓不屈・ボスの自転車人生

後閑 信一 後閑 信一 ごかん しんいち 元競輪選手  平成2年4月に65期生としてデビュー。落車による大ケガや数々の困難を不撓不屈の精神で克服。第46回競輪祭、第15回寛仁親王牌、第56回オールスターとG1で3V。面倒見いい親分肌と風貌から〝ボス″と称された。平成30年1月引退。通算成績は2158戦551勝、2着311回、3着255回。

第123回 夢と希望に溢れた時期  2021年4月20日

 何故か私のクルマ遍歴は日産から始まりましたが、プレジデントまで上り詰め、次はトヨタに移りました。当時は初代セルシオが一世を風靡していましたが、私はまだプレジデントのリムジンのような車体が好きで、すぐにはセルシオには行きませんでした。私の一年後輩の須藤直道選手は初代セルシオを新車で購入しており、乗り心地や装備は知っていました。後席にはマッサージ機がついており、Cパッケージはエアサス!乗り心地は勿論最高。次はセルシオを買おうと思っていたのですが、数年経った頃にマイナーチェンジの噂が入って来ました。慌てて黒の初代セルシオを購入。半年ほど堪能しました。
 実はデビューしてすぐに古物商の許可を警察署に申請し、許可を持っていたので、私の場合は「古物」なだけに一度ナンバーが付けば業者価格で「業販」という形で仕入れをすることができるのです。しかし、業販は現状販売・現金支払いで保証もなし。あとはその業者さん次第では売れて在庫が回ればという事で更に値引きをしてくれる事があるので、かなりの安値で仕入れる事が出来たのです。それでも私は新古車や走行距離のわずかな車両しか目を付けないので、今までに故障は一回もありませんでした。「古物商」とは申請するときに項目に書いておけば全てオッケーですので、私は申請書に貴金属から始まり・革製品・自動車・オートバイ・自転車・衣類・機械工具等、、書きました。なのでありとあらゆるものを取り扱えるのです。因みに古物商は警察署の生活安全課で許可をもらえます。勿論犯罪歴があったり素行を調査されるので、私が古物商を持っていると言うことはどこも引っかからずに済んだという事です。(競輪選手だから当たり前)笑い!ですから私がクルマを何十台も買い換えをしてきたのは、仕入れてカスタムをして高く売れる時に売却するのもありました。
 当時は、例えばメルセデス・ベンツS600を購入してレースで頑張ってAMGやロリンザー等のホイールやエアロキットを付ける。そうすると外車はそれが付加価値として評価されるのです。なので走行距離が増えても買った時より高く売却できることがあるのです。なので私のクルマはいつもピカピカ!いつ売却しても良いようにしていたのです。自分で買って乗っていじっているので、そこらの車屋さんより詳しいよね~!しかもお客の気持ちも分かるし「業者ってこんなに知ったかぶりしているんだな~」と思うことが多々ありました。正直、あの頃車屋をやっていたら、さぞかし儲かっただろう!しかし、私の中には競輪の他に手を出したら競輪の成績がおろそかになってしまう。と罪悪感をかんじたのです。なので私にとって余計な事は一切省き、競輪選手一筋に打ち込めた事が良かったのだろうと私は思っています。
 思い出に残っているのは千葉競輪場で行われた全プロ競輪、スーパープロレーサー賞!関東勢は4人が乗りましたが、神山雄一郎選手の後ろは地元鈴木誠選手ー遠澤健二選手が主張となり、話し合った結果、割り切って行こう!という事になり、私は太田真一選手の番手に付かせてもらう事になったのです。そして私の後ろは同県の稲村成浩選手となり3車のラインの戦いでした。他地区からはイケイケだった馬淵選手ー松岡選手ー小川選手の3分戦で1着賞金250万円の一発勝負!レースは神山選手のラインからスタートを切りました!中団には馬淵ライン。そして私たちのラインは後方からの仕掛けになりました。千葉競輪場は500メートルのバンク。ゆっくりとレースは進みます。残り2周の赤板を過ぎてもレースに動きは全くなく、ファンの声援だけが大きくなっていきます。当時はあの大きな千葉競輪場を一周お客さんでいっぱいでしたから、それはもの凄い歓声でした。そして打鐘を迎えても太田選手は動きません。すると痺れを切らせた中団の馬淵選手が前の神山ラインを押さえたのです。するとスイッチが入った様に太田選手が主導権を取りました。最終HSでは太田選手がマイペース先行に持ち込みグイグイとスピードを上げていきます。神山選手は後方の内側に位置して万事休すの展開のはずでした。私は太田選手の番手で後ろを振り返ると、馬淵選手も神山選手も見えませんでした。そして最終3コーナー、気づくと神山選手が見えたのです。私はいつも神山選手の番手に付かせて貰っていますので、そのキレのあるすさまじいスピードと伸びて行く感じは分かっているつもりです。なので普通の選手とは次元の違うスピードに勝つには、絶対に油断をしてはならない!自分のペダリングをニュートラルに入れてはいけない!といつでも対応できる状態にしていました。最終2センター、私は前で頑張ってくれている太田選手も極力残しながら、捲ってくる神山選手に捲られない様にけん制をしながらゴールへ向かいました。4コーナーを回った時は太田選手・私・神山選手が横並びの状態!私は寸前で前に踏み込み1着でスーパープロピストレーサー賞を制したのです!結果、神山選手とはワンツーでしたが、別線で神山選手に先着した思い出に残るレースの一つです。
そしてその次の日に全プロ選手権自転車競技大会が行われたのですが、正直、私の記憶に残っていないのです。それもそのはず!1着の250万円を握り締め、同期の渡会宏和選手と富永益生選手とFERRARI 512TRを買いに車屋に行き、手付けとして250万円を置いてきた事を思い出しました。あの時は本当に夢と希望に溢れた時期でした!

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