• 寛仁親王牌10/7〜10/10

後記 GⅠ 前橋 10/07

待ちわびた、この瞬間

稲垣裕之

稲垣裕之

稲垣裕之

稲垣裕之

 『近畿の仲間』とともに、つかんだ涙のVは、G1初優出から12年の歳月が流れていた。12度目のチャンスでタイトルを手にした稲垣は、何度も『近畿の仲間』を強調した。
 「本当にいろんな人に世話になって、近畿の一緒に走る仲間はもちろんですけど。ずっとトレーニングを見てもらった松本整さんや、いつも支えてくれた家族に感謝したいです」
 10年8月には骨盤骨折の大怪我を負い選手生命も危ぶまれた。それでもあきらめることなく夢を追い続けた。何度も挫折しかけた稲垣を強くしたのは、仲間の存在だった。
 SS班として初めて迎えた今年のG1、全日本選抜を優出も、決勝は失格の憂き目をみて鎖骨骨折。戦線離脱を余儀なくされた。そしてまた新たな一歩を踏み出しオールスターで決勝に進出。村上の男気先行を磐石の番手まくり。タイトルを手にしかけたが、岩津裕に交わされ、またしても涙を飲んだ。
 「正直、怪我をした時に(G1優勝ができないのかと)思いましたし。あと一歩で獲れないレースが続いて…」
 大阪コンビとは別線となった決勝だが、信頼できる脇本、村上とのラインに、稲垣の気持ちが揺らぐことはなかった。
 「自分の仕事をしっかりしようと。すごく集中できたし、どんな展開でも対処しようと思ってました」
 最終バックからこん身の番手まくりを放った稲垣に、村上を弾いた平原が強襲。2人の体が重なったところがゴールだった。
 「(優勝か)どうかわからなくて、ファンの方に教えてもらって。それで半信半疑ながらガッツポーズをしました」
 稲垣が日ごろから口にしていた「近畿はラインの競輪」で、念願のG1制覇。今度はタイトルホルダーとして、村上と2度目のグランプリが待っている。
 「本当に自分の力だけで獲れたもんだと思ってないので。近畿の仲間に感謝して、その気持ちを忘れず。これからタイトルホルダーとして、ふさわしい走りをしていきたいです」
 仲間に支えられ、近畿を支えて、たどり着いた稲垣の最良の瞬間を数え切れないファンが待ち望んでいたことだろう。猛追も平原康は2着
 「もうあれしかなかった。飛び付けなかったんで」とは、平原。わずかに空いたインを鋭く突いて、直線の入り口で村上を飛ばす。そのまま稲垣に迫ったが、4分の1輪届かず2着。
 「脇本の掛かりがすごかった。どうしようもなかったし、深谷も行けないだろうと思いました。自分は外踏むのは無理だと思って、集中して踏めるコースをと思って踏んだ」
 稲垣の初戴冠を村上も感慨深げに振り返る。
 「すごいスピードで平原が来たのはわかったんで、車を内に寝かせたけど平原のパワーが上でした。今回(稲垣が)不甲斐ないレースをすることがあれば、周りも納得しないでしょうし、いい結果を出せて心から稲垣を祝福したい」
 脇本は別線の反撃を許さず、稲垣の優勝をエスコート。
 「4コーナーまで勝負するのを前提に、最後まで踏み切れるところから行きます、と。(京都の2人は)言葉をかけずに任せてくれた。それだけ信頼してくれてるし、そのぶん、使命感があった。今度はもっとゴールまで勝負できるように頑張ります」
 まくり不発の深谷は、いいところなく8着。
 「(最終)ホームが…。見ちゃったなあ。気持ちで負けました。(脇本が)すごい掛かりだった」

Race Playback

レース展開5
6古性を押さえた9脇本が赤板で主導権を握る
レース展開7
3稲垣は最終ホームで9脇本との車間を空ける
レース展開9
別線の反撃に3稲垣は最終バックから番手発進

レース経過

誘導員 : 手島志誠

 号砲と同時に中部両者が勢いよく飛び出す。正攻法の深谷に、浅井が付けて前受け、これに単騎の平原、園田が続き、中団に脇本-稲垣-村上、後方に古性-南の並びで隊列は落ち着く。
 残り3周半から古性が早くも上昇を開始。青板で誘導員の後位に収まる。脇本は追わず、深谷も引かされ、平原が大阪コンビの後位に入り、園田が続く。後方の7番手で仕掛けのタイミングをうかがっていた脇本は中バンクに上がって3コーナーから一気にスパート。赤板から主導権を握る。これを受けた古性が4番手を確保。単騎の平原、園田が6、7番手、深谷は8番手に置かれる。脇本がそのまま緩めずに軽快に飛ばして、打鐘、最終ホームを一列棒状の態勢で通過。2コーナーから古性がまくると、車間を空けて備えていた稲垣がバックから番手まくりを敢行。バックから内を進出した平原は4コーナーで村上を外に飛ばして執念の追い込み勝負。これを振り切った稲垣が悲願のG1初優勝を飾った。単騎で俊敏な立ち回りを見せた平原はわずかに届かず2着。平原にすくわれた村上が3着に踏ん張った。

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