待ちわびた、この瞬間
『近畿の仲間』とともに、つかんだ涙のVは、G1初優出から12年の歳月が流れていた。12度目のチャンスでタイトルを手にした稲垣は、何度も『近畿の仲間』を強調した。
「本当にいろんな人に世話になって、近畿の一緒に走る仲間はもちろんですけど。ずっとトレーニングを見てもらった松本整さんや、いつも支えてくれた家族に感謝したいです」
10年8月には骨盤骨折の大怪我を負い選手生命も危ぶまれた。それでもあきらめることなく夢を追い続けた。何度も挫折しかけた稲垣を強くしたのは、仲間の存在だった。
SS班として初めて迎えた今年のG1、全日本選抜を優出も、決勝は失格の憂き目をみて鎖骨骨折。戦線離脱を余儀なくされた。そしてまた新たな一歩を踏み出しオールスターで決勝に進出。村上の男気先行を磐石の番手まくり。タイトルを手にしかけたが、岩津裕に交わされ、またしても涙を飲んだ。
「正直、怪我をした時に(G1優勝ができないのかと)思いましたし。あと一歩で獲れないレースが続いて…」
大阪コンビとは別線となった決勝だが、信頼できる脇本、村上とのラインに、稲垣の気持ちが揺らぐことはなかった。
「自分の仕事をしっかりしようと。すごく集中できたし、どんな展開でも対処しようと思ってました」
最終バックからこん身の番手まくりを放った稲垣に、村上を弾いた平原が強襲。2人の体が重なったところがゴールだった。
「(優勝か)どうかわからなくて、ファンの方に教えてもらって。それで半信半疑ながらガッツポーズをしました」
稲垣が日ごろから口にしていた「近畿はラインの競輪」で、念願のG1制覇。今度はタイトルホルダーとして、村上と2度目のグランプリが待っている。
「本当に自分の力だけで獲れたもんだと思ってないので。近畿の仲間に感謝して、その気持ちを忘れず。これからタイトルホルダーとして、ふさわしい走りをしていきたいです」
仲間に支えられ、近畿を支えて、たどり着いた稲垣の最良の瞬間を数え切れないファンが待ち望んでいたことだろう。猛追も平原康は2着
「もうあれしかなかった。飛び付けなかったんで」とは、平原。わずかに空いたインを鋭く突いて、直線の入り口で村上を飛ばす。そのまま稲垣に迫ったが、4分の1輪届かず2着。
「脇本の掛かりがすごかった。どうしようもなかったし、深谷も行けないだろうと思いました。自分は外踏むのは無理だと思って、集中して踏めるコースをと思って踏んだ」
稲垣の初戴冠を村上も感慨深げに振り返る。
「すごいスピードで平原が来たのはわかったんで、車を内に寝かせたけど平原のパワーが上でした。今回(稲垣が)不甲斐ないレースをすることがあれば、周りも納得しないでしょうし、いい結果を出せて心から稲垣を祝福したい」
脇本は別線の反撃を許さず、稲垣の優勝をエスコート。
「4コーナーまで勝負するのを前提に、最後まで踏み切れるところから行きます、と。(京都の2人は)言葉をかけずに任せてくれた。それだけ信頼してくれてるし、そのぶん、使命感があった。今度はもっとゴールまで勝負できるように頑張ります」
まくり不発の深谷は、いいところなく8着。
「(最終)ホームが…。見ちゃったなあ。気持ちで負けました。(脇本が)すごい掛かりだった」