地元に捧げるワンツー

渡邉一成
何度も重ねてきたシミュレーション。だからこそ、格別のはずの地元G1制覇にも、渡邉は素直には喜べない。
「ブサイクなレース。スッキリしない勝ち方だし、手放しでは喜べない。新田に申し訳ない…」
竹内が落車のアクシデントで新田は、4番手を手に入れた。その新田がまくりで浅井を乗り越え、渡邉も続く。あとは地元S級S班のマッチレース。新田が最終4角手前で外に振ると、渡邉は内から新田に体を併せた。
「地元で勝ったっていうだけで、内容が良くない」
“まくりの新田を外から交わす”。同県の後輩であるだけでなく、競技では海外遠征で苦楽をともにしてきた。そして今年は同じS級S班。誰よりも近くで新田の強さを知る渡邉だからこそ、新田を外から抜く意味を、その本当の価値をわかっている。
「去年から比べると新田の成長のスピードは本当にすごいものがあって、もう僕はただ付いているだけで抜ける気はしなかった。今回もたまたま内に入ってしまったから勝てただけで、実力ではないかなと。あとは執念だけでした」
1月の地元記念を制覇し今年2度目の優勝がオールスター。地元の大舞台のプレッシャーに押しつぶされることなく、シリーズ2日目の12日に34歳になったばかりの渡邉は地元ファンの期待に応えた。
「東京オリンピックが控えているのに、ここで緊張して体が動かない状況では、オリンピックでは勝負できないと。決勝は余裕を持って走れた。(東京五輪へ)僕の中ではなくて、監督の中に秘めたものがあると思うので、僕はそれにしっかりと、故障で練習できないとか、疲れて練習できないという状況にならないよう、万全の状態でトレーニングに励むだけです」
4大会連続の五輪出場。3年後の東京五輪に迷いはない渡邉が、まずはグランプリを見据える。
「グランプリの舞台でやり残したことがたくさんあった。それは新田も同じだと思う。今年はもっといいレースを2人でしたい。グランプリまでしっかりとトレーニングに励んで、最高の舞台で最高の成績を残したい」
新田とのグランプリ。すでにイメージはできている。新田の次元の違うまくりを外から交わしてV。その時まで、カズナリの最高の笑顔はとっておこう。力魅せた新田祐が準V
高松宮記念杯、サマーナイトフェスティバルに次いで3連続でのビッグ制覇がかかっていた新田は、4分の1輪差で2着。それでも深谷の逃げをあっさりねじ伏せたスピードでスタンドを沸かせ、多くの地元ファンを魅了した。
「目標としていた(ラインの)3人で独占ができなかったのは悔しい。まさかあんな風に落車になるとは誰も思っていなかった。波乱のレースになったなかで、地元ワンツーはよかったです。深谷君も強いし、浅井さんはタテにも踏めるしヨコもできる。坂口君もいてしっかりしたライン。だから、4番手を取ったからといって確信はできなかった。しっかりしたところでしっかり仕掛けようと。そういう仕掛けはできました」
竹内の落車で深谷の番手になった浅井は、スピードの違う新田を止め切れず3着がいっぱい。
「(竹内)雄作の落車を避けてだいぶ脚にきていた。そのあとはしっかりとレースができたけど、新田君が強かった。あれは止められない…」
新田が4番手に構えて、単騎の脇本、原田は7、8番手。最終1角で脇本がまくりを打ったが、時すでに遅く新田に合わされ不発。
「新田さんが引いてきた時点でチャンスがなかった。落車を避けて、(体が)固まってしまった。もうちょっともつれると…」
「競られるのも覚悟していたけど、気持ちだけが先走ってしまった。経験不足です。ラインにもお客さんにも迷惑を掛けてしまった…」と、言葉を振り絞るのは、青板のバック過ぎに落車した竹内。