S班のラストに今年初優勝
昨年末のグランプリで輪界の頂点に立ってから1年。苦悩の1年間を戦い抜いた和田健太郎が、今年S級S班として挑む最後の戦いに勝利した。
新山響平ラインがスタートを取って、南関勢は中団からの組み立てがかなった。竹内翼が切ると、すかさず深谷知広が叩いて出た。
「(初手で)中団はそこまで考えていなくて、また深谷包囲網で前を取らされるだろうなと思っていた。新山君が前受けで、深谷君は先行しやすくなったと思う。すごい掛かりで、道中は口が空いてしまった」
輪界屈指の機動力を誇る深谷がすんなりと駆けているのだから、別線の巻き返しは容易ではない。中団からまくりを狙った竹内翼は1車も出ずに外に浮き、新山もあおりを受けて不発。3コーナーから外を踏んだ井上昌己をけん制しながら鈴木裕が前に踏み込み、ライン3番手の和田は鈴木と深谷の中のコースを踏む。地元の執念で外を伸びた井上と、和田のゴールはほぼ同時だ。写真判定の末に、軍配は和田に上がった。19年10月京王閣以来、通算3度目の記念優勝。いつもと変わらず、ラインへの感謝を忘れない。
「紙一重でしたね。キック(鈴木)は抜いたと思ったけど、井上さんも外を伸びていたので。でも、自分のいくコースをいって、後悔はなかった。突き抜けはデキ過ぎです。前2人が頑張ってくれたおかげ。優勝はデキ過ぎです」
昨年のグランプリを制し、初のS班として臨んだ2021年。だが、実に5度の落車に見舞われ、本来の決め脚は鳴りを潜めた。それでも、試行錯誤をやめない先に見えた光が、今回の優勝につながった。
「前回の伊東記念の3日目からバチッと良くなった。完調とはいかなくても、いいところまでは来られた。今回の3日目に、深谷君のギリギリのまくりに付いていけた。深谷君は本来はスプリンターですし、今日(決勝)のような競走はラインのためにしているんだと思う。3日目のようなまくりが彼の真骨頂。それに肉薄できたのが良かった」
完全復活とは、まだまだいかない。それでも兆しは見えている。S班からは陥落したが、来年も大きなプレッシャーの中で戦うことに変わりはない。
「これから先も苦しい戦いが続くと思っています。ここを勝ったからって、そんなに甘くない。これだけで喜んではいられないです。体調も完調とはいっていない。自分としては、まだまだかなり長い道のりだと思っています。本調子ではないなかで、今年はラインのみんなに助けてもらって良い着を取らせてもらっていた。逆に言えば、それだけラインのみんなに迷惑を掛けたと思っています。来年はそれを返していきたい」
仲間たちへの大きな感謝を胸に、来年もまた一戦一戦を積み重ねていく。
和田にタイヤ差で敗れた井上昌己は、悔しさを押し殺して語った。
「惜しかったけど、届かなかった。悔しいね。深谷君が仕掛けるのは想定していたけど、あんなにいくとは思っていなかった。竹内君が無理やり仕掛けてくれて、コースを作ってくれたけど、ワンテンポ、踏むのを待った分、伸びなかった」
深谷の番手の鈴木裕は、内、外を交わされ3着。
「(深谷は)あそこから仕掛けるとは思っていなかった。深谷君がすごかった。外に振って戻って慌てて無理やり踏んだら出なかった。佐世保のあの位置は、進まないんですよね。車間を空ければ良かったです。あの辺が下手でした。内は締めながらじゃないと違う人が来るかもしれないけど、和田さんも付いていたし、コースを確保しないといけないしで、そこも難しかった。もう少しうまく仕事ができるようにしたいです」