初タイトルの地で6度目のG1制覇
昨年8月、平のオールスター、東京五輪から中0日で新たなスタートを切った。そのオールスターでは、古性優作を初戴冠に導いてワンツー。鮮烈な競輪への復帰だったが、無理がたたったのか、10月の久留米G3を2日目から途中欠場。腸骨の疲労骨折で長期の戦線離脱を強いられた。
「(ここまで)決して楽な道のりではなかった。ようやく段階を踏んで戦えるだけの力をつけた。まだ完調ではないけど、戦える気持ちだけは完全に戻ってきたのかなと」
今期はS級1班。2月の奈良気記念から復帰した脇本雄太は、全日本選抜の出場権もなく、今シリーズのダービーが今年の初G1だった。
「今年は出られるG1が少ないなかで、どうしても優勝が欲しいっていう一心だった」
勝ち上がりの厳しいダービーでの予選スタートのハンディもあったが、勝ち上がりの3走ではすべて先行策。脚力は戻り切っていなくても、“逃走心”に陰りはなかった。
「眞杉(匠)君が油断せずに踏んでいったんで、かなり厳しい展開でした。自信はなかったけど、一度踏んだところからは最後まで緩めずにいこうと。それが結果に表れたんだと思います」
7番手まで下げた脇本を確認するように、眞杉は赤板過ぎからペースを上げて脇本に反撃のタイミングを与えない。車間が空いた7番手の脇本は、詰める勢いで意を決して前団に襲い掛かった。5番手から合わせて出る清水裕友を最終バックでのみ込むと、番手発進の平原康多との踏み合いにケリをつけて直線に突入。もう脇本をさえぎるものはなかった。
「余裕はなかった。平原さんを乗り越えたところで記憶がないくらい力をふり絞った。(ゴールで)ハンドルを投げて1秒くらいして、自分が優勝したのって。それくらい力を出し切れたレースだった」
終わってみれば2着の佐藤慎太郎に1車身半差の完勝。ロングまくりで6度目のG1を18年オールスターで初タイトルを手にした平で遂げた。
「(予選からだったけど)勝ち上がりのなかで、しっかりとラインで勝ち上がることができて、味方が多い決勝だったので心強かった。G1をしっかりと獲ってグランプリに出るっていう(今年の)第1目標をクリアした。これからは、より多く近畿勢をグランプリに連れていきたい」
地元地区ながらも岸和田で開催される高松宮記念杯の出場権はない。次回のG1出場は8月のオールスターが有力。5月22日からの地元、福井F1にたくさんの脇本ファンが待っている。
「グランプリを決めても、まだ(今年の)前半戦が終わってない。気を緩めずに、目の前にある戦いをしっかりと走っていきたい。目の前の一戦、一戦を走ることが、競輪界の盛り上がりにつながるし、気持ちを切らさずに」
改めて輪界最強を印象づけた脇本だが、後半戦に向けてまだまだパフォーマンスが上がってくることは間違いない。脇本が強ければ、強いほど、輪界はさらに熱を帯びてくる。
最終3コーナー過ぎから脇本に合わせて、平原康多も踏み出す。が、スピードは脇本が断然。平原マークの*佐藤慎太郎は、古性を弾いて守澤太志との壮絶なバトルを制した。
「ワッキー(脇本)がすごかったですね。自分としてはリラックスして走ろうと思っていたんですけど、お客さんの熱気がすごくてそうも言ってられなかった。眞杉君も強かったですし、平原も。ラインとしてなんて言うか最後まで信頼できた。地区は違いますけど。あそこ(最終3コーナーで)前に踏むっていうのもあったと思うんですけど、古性君はテクニックもあるのでその前に仕上げておこうと。まあ、でも前に踏んでいても脇本君の優勝は変わらなかったと思います。そのくらい強かった」
単騎の守澤太志は、逃げた眞杉ラインの4番手でじっと我慢。最終4コーナーで内を突いて、コースをこじ開けるように追い込んだ。
「その(ゴール前で突っ込む)ために1人でやった。最善は尽くせたと思います。普通の選手なら割れたと思うんですけど、(佐藤)慎太郎さんの壁は厚かった。でも、想定した展開で、しっかりとゴール勝負はできた」