ブランク明けいきなりV
「無駄な時間は一日もなかった」
2月の全日本選抜での誘導員早期追い抜きによるペナルティで、約130日間のあっ旋保留。実戦から離れていた4カ月余りもの時間を、菅田壱道はこう振り返った。
「競輪から離れて、自分と向き合う時間にしていました。G1とかを見てしまうと、悔しい思いだったり、妬み、嫉み、そういうネガティブな感情が出てしまう。競輪とは距離を置いて、自分と向き合った」
失意の中で下した決断は、自分のすべてをかけていた競輪と距離を置くこと。ひたすらウエートトレーニングに明け暮れ、自己鍛錬の期間とした。「体が大きくなっていくことに喜びを感じていました」と、トレーニングの成果を目に見える形で実感し、腐ることなく復帰の時を待った。
「高松宮記念杯ぐらいから競輪を見だして、ここのあっ旋が入って、徐々にモチベーションが高まった。ビッグも次のサマーナイトフェスティバルしか走れないので、一戦、一戦、この記念から成績を残したいと思っていた。けど、優勝できるとは思っていなかったです。とんでもないことだと思います」
トレーニングを積んでも、これだけ実戦から離れていれば誰しもがレース勘を失ってしまうものだが、それは持ち前のレースセンスの高さでカバー。坂本周作を目標から、ここしかないというタイミングで番手まくりを放ち、グランプリ王者の古性優作を退けた。復帰戦で記念優勝という、離れ業を成し遂げた。
「後ろから押えて、松井(宏佑)君を後方に置いてペースで駆けたかった。ゆっくりと車間を空けるよりも、先に車間を空けておいた方が後ろは詰まらないと思って。一瞬、古性君が見えて、あのキレだと次に見た時には横に並ばれてしまうと思って踏ませてもらった」
一昨年久留米G3以来、通算4回目のG3制覇にゴール後は「本当に気持ちが現れた」と会心のガッツポーズ。今節は準決勝が大雨の影響で中止となり、抽選で決勝進出をつかんだ。思えば、その時も「今年一番叫んだ」と、素直に感情が爆発した。
「(抽選は)4カ月分の思いを込めて回しました(笑)。そういう運もあって決勝に乗れている。サマーナイトフェスティバルまで中4日。今日1日だけ喜んで、4日後に向けて気を引き締めていきたい」
失意を乗り越えた矢先に、ご褒美のように決勝が舞い込んだ。それをモノにしたのは、たゆまぬ努力の成果だろう。今度は真夏の夜の祭典で、たまった感情をもう一度爆発させる。
北日本勢追走からまくった古性優作だが、番手まくりの菅田をとらえることはできずに準V。大会連覇とはならなかった。
「スタートけん制が入ったし、1番車を着させてもらっていますし前からで。(北日本勢を受けて)もう単騎も誰一人入れるつもりはなかった。坂本君が来るタイミングが遅ければ粘ることも考えていた。松井君を見ていたら(車間が)詰まってしまって、きれいにペダリングできなかったですね。うまく間合いも作れなくて、森田君が来たのが見えて、もういくしかなかったですけど。もっと前のホームで行くべきでした。(外々を踏まされたが)もうツケマイじゃなくずっと全開で。シンプルに脚が足りなかった感じですね」
最終バックでは最後方だった単騎の松岡辰泰だが、2センターからコースを縫って、直線は外を伸びて3着に食い込んだ。
「松井さんがジャンでカマしてくれれば3番手だと思って(初手の位置を)選びました。自分の中でそんなにハイスピードには感じなかったんですけど、森田(優弥)君が波を作っていたみたいで、松井さんも行けなそうな感じでしたね。先に森田君が仕掛けていって、松井さんが外に浮いて。鈴木(裕)さんが内へ行った。初めてでしたけど、自分も内へ切り込みました。そのあと外を踏んだら意外とすっと出ましたね。ヤンググランプリの権利を狙っているので点数的にもこの3着は大きいです」