鮮やかすぎたまくりV
ゴールを先頭で駆け抜けたあとの1コーナー、松浦悠士が右の拳を上げて喜びを表した。
「(前回優勝した)富山よりもキツいメンバーだった。思い切り行くだけだと思った。ダメでも仕掛けて大槻(寛徳)さんにもチャンスがあるように。そういうのが良かったのかもしれない。自分だけって思ってると」
前回の富山記念決勝では、自ら動いて4車で結束した東日本勢を粉砕。しかしながら、今度は3車の地元勢と眞杉匠、平原康多の関東コンビの消耗戦を冷静沈着に見極めた。
「(車番からも)絶対に後ろ攻めになると思ってた。そしたら平原さんの後ろに入れた。(周回中で)2番目だったのは想定外でした」
前受けから岩本俊介を突っ張った眞杉は、次に襲い掛かる志田龍星を出させて番手に飛び付く。しのいだ山口拳矢が番手を守り、眞杉が3番手に入って最終ホームを通過。立て直した眞杉が外に持ち出した瞬間を松浦は見逃さなかった。
「眞杉君が突っ張ってからのレースになるんだろうなと。眞杉君はだいぶ脚力を消耗していたんで、(眞杉が)仕掛けたタイミングでと。平原さんを超えられれば、勝負になるかなっていうのがありました」
眞杉が加速している上をさらに踏み上げた。脚がたまってたとはいえ、前には平原という厚い壁が。そこには松浦の緻密な計算とテクニックがあった。
「平原さんも僕が後ろっていうことはわかってたから、内を締めていた。そこを瞬時に判断できた」
平原が大きくアクションを起こせないタイミングで加速して、連係した大槻寛徳さえも置き去り。切り替えた平原を松浦が振り切った。
「今回はアクシデントもあったんで、(優勝は)余計にうれしいです。状態はすごくいい。ただ、今回のダメージがあるんで、しっかりと次に備えたい」
富山に続く連続Vは、ともにラインの先頭を務めて、自力でつかんだもの。弾みをつけて共同通信社杯の臨む。
「去年(の共同通信社杯)は失敗してるんで勝ち上がりを大事にしたい。その先に脇本(雄太)さんとの対戦があると思うので、一矢を報いたい」
昨年はオール予選の初日で、まさかの敗退。それだけに期する思いがある。そして連勝を続ける脇本との再戦。年末の大舞台、グランプリをイメージしているのは言うまでもない。
「前回と同じように勝てなかった」とは、平原康多。富山記念に続いて、またもや松浦を交わすまでに至らなかった。が、眞杉の奮闘もあり、納得の顔で振り返る。
「眞杉も頑張っていたし、自分は(川口)聖二のところをさばいた。あとはヤマケン(山口)と眞杉の勝負を3番手でと。もう少し待てるかと思ったけど、待てなかったですね。あれ(松浦のまくり)は対応できない。でも、ラインとしてはすごくいい競走ができたし、意地は見せられたと思います」
松浦の踏み出しに置いていかれた大槻寛徳は、結果的に平原を追いかけて3着に流れ込んだ。
「(松浦に)感動しました。すごすぎですね。これで(まくりに)行くんだって。自分はもう脚がいっぱいだった。(松浦を)抜けば優勝だけど、そんなに甘くない。すごいチャンスだった。もったいないけど、いまやれることはすべてやった」