9年ぶりのビッグVで第二章がスタート
14年8月のサマーナイトフェスティバル以来、実に9年ぶりのビッグ制覇。その間にナショナルチームを退き、一昨年の1月には新たな練習環境を求めて愛知から静岡に移籍。さまざまな思いが深谷知広の心のなかを駆け巡る。
「すごいうれしい気持ちと、まだ受け取れない気持ちの半々です。なかなか結果が出せず、時間が掛かってしまったけど。こういうところで結果を出せてうれしいです」
練習仲間の渡邉雄太とのビッグ決勝の舞台。アイコンタクトなしでも、2人の思惑がピタリと合致した。
「(渡邉との)連係は何度もあるけど、G2の決勝での初めてだった。力はわかっているので、うまく力を発揮すれば互いにチャンスあると思っていた。単騎の選手は基本的には考えず、まずは中四国の動向を注視していた。(中四国勢が)早めに押さえにきて、引いた方がいいと思ったところで(渡邉が)引き出したんで考えていることが一緒だなと。そこからは安心して付いていた」
赤板で7番手に下げ切っていた渡邉は、先頭に立った佐々木豪が緩めたその瞬間を見逃さなかった。2コーナー過ぎから仕掛けた渡邉が主導権を握って駆ける。しかしながら、ラインは深谷との2車。遅れ気味に2人を追いかけた単騎の新山響平が、最終ホーム手前から襲い掛かった。
「(渡邉は)かなりいいレースだったと思う。新山君が一瞬で横に来て止められる感じではなかったから、(渡邉)雄太を入れたいなと。そこで嘉永(泰斗)君がいたので止めた」
新山には出られたものの、もう1人の単騎、嘉永の反撃の芽は深谷がブロックして摘み取った。懸命に新山との車間を詰める渡邉だが、その距離がなかなか縮まらない。バックを過ぎて深谷は判断に迫られた。
「前を見た時に新山君がちょうど見えなかったので、どれくらい車間が空いているかっていうのが読めなかった。自分の間合いというか、そこで踏ませてもらいました。(踏み出して)出が悪くて、一瞬届かないかなという思いもあったんですけど。そこからガムシャラに踏んでどんどん距離が詰まってきたので、そこはいけるかなと」
自慢のエンジンに点火して、深谷は最終3コーナー過ぎに踏み込んだ。直線の入口では、新山とのスピード差は明らか。深谷に誰一人ついてこられず、新山を3車身ちぎってゴール。静岡の深谷としては、初めてのビッグ制覇と遂げた。
「(静岡に移籍してからは)練習仲間も増えて、年下の選手もすごい多いのでその責任感もある。そのなかで自分も引き上げてもらっている。(今年に入って)番手を回る機会が増えて、最初のころよりは余裕をもって走れているかなと思います。(今後は)ここは最終目標ではもちろんないですし、上位で戦える力をさらにつけていかなくてはいけない。来月から自分たちのなかでキツい練習の期間に入るので、そこをしっかり乗り越えてさらにみんなで成長できるように。まずは頑張って、その先の結果というのをしっかり求めたい」
1月の大宮、前回の松戸と今年2度の記念Vも番手でのもの。9年ぶりのビッグ制覇で“深谷劇場”の第二章の幕がようやく開いた。
ただ一人、S級S班として優出。地元のビッグでただならない重圧もあった新山響平だが、単騎でも臆することなく力を出し切った。深谷につかまっての準Vも、その走りは称えられていい。
「(組み立てとしては)先手ラインの3、4番手っていう感じだった。三谷(竜生)さんの(ラインの)3番手だと立ち遅れると思った。結局、9番手になってしまったんですけど、(渡邉)雄太君が行く気があるように見えた。雄太君が踏んだ時に遅れたんですけど、緩んだところで前に出られた。(自分の後ろは)ピタッとついている感じじゃないのはわかったんですけど、目いっぱいだった。フォームもぐちゃぐちゃで、落ち着いていつも通りの感じで踏めれば、もっとゴール前勝負ができた思う。もっと遅めにいければ、もうちょっと良かったかもしれないですし、(位置を取れる)テクニックがあれば良かったんですけどね」
近畿コンビに割り込まれた隅田洋介は、最終ホームで9番手。最終2コーナーからインを進出して、中団まで取りつくと直線で外よりのコースを伸びた。
「ちょっと追走できなかったですね。タイミングがズレてしまった。追い上げようと思ったんですけど、三谷さんも引かないでしょうし。(清水裕友の後ろに)付いていれば違ったと思う。内はずっと空いていたんで、とりあえずドッキングしないとなって。(3番手回りは)難しいですね。人に合わせて踏まないとなんで、番手でも難しいし勉強です」