• 静岡競輪場4/30〜5/5

後記 GⅠ 静岡 04/30

追い風感じた6日間

中川誠一郎

中川誠一郎

中川誠一郎

中川誠一郎

 「平成28年熊本地震被災地支援競輪」として行われた今シリーズ。いまもなお、やまない断続的な地震に練習どころか、いつもの生活さえままならず苦しい状況のなかで、熊本からは6人の選手が出場。たくさんの人たちの思いを背負った中川が、苦境を力に変えてドラマティックなG1初制覇を遂げた。
 「感謝しかない。この被災地支援競輪で僕が優勝できたのも、みんなが応援してくれたおかげです」
 4月14、16日と熊本を大きな揺れが襲った。全日本自転車競技選手権大会トラックを控えていた中川は、2度の地震の際には神奈川、静岡にいたが、大会欠場を決めた。その後、なんとか自宅にたどり着いたのは数日後だった。
 「2回目の地震で移動ができなくて1日、2日待って。それから福岡に飛んで先輩に迎えに来てもらいました。(自宅の)建物自体はなんとか持ちこたえたんですけど。家の中はぐちゃぐちゃでした。5日間くらいは熊本でできる限りのトレーニングと、片付けに追われていた感じです」
 故郷の大きな被害を目の当たりにした中川は、自らを鼓舞。ありったけの思いと力を自転車に込めて、その走りで被災地にエールを送ることを誓った。
 「僕ができることは走ってアピールすることなので、それができたのでサイコーですね」
 レースは、深谷に押さえ込まれた新田が番手で粘り、吉田と併走で赤板を迎えた。深谷がインを空けると、誘われるように新田が内を抜け出して主導権を握るが、深谷も打鐘の3角から反撃。新田、深谷、両者の踏み合いで、中川に千載一遇のチャンスが巡ってきた。
 「いろいろ考えたんですけど。やっぱりもう自分が一番得意な悔いのない戦法で、思い切りワンチャンスだけに集中していこうと思っていました」
 牛山、稲川と中川以外の単騎の2人が流れに遅れまいと前々に踏み込むなかで、中川だけが打鐘を過ぎても車間の空いた9番手の最後方。じっと脚を溜めて、自らの爆発力を信じて一撃にかけた。
 「新田君と吉田君を追いかけているので必死でした。もう、それだけでした。(ゴールを先頭で駆け抜けて)シビレました」
 最終ホームから踏み込むと、不発で浮いた深谷のあおりを物ともせず大まくり。合わせるように自力に転じた吉田、逃げる新田をとらえても中川のスピードは衰えず、2着の吉田を4車身ちぎって颯爽とゴールを駆け抜けた。
 「自分の力だけじゃないような感じがして。みんなに獲らせてもらった感じです。本当に自分に6日間追い風が吹いていたような感じがする」
 優勝賞金6500万円獲得し、年末のグランプリ初出場を決めた中川は、8月には2度目の五輪出場。スプリント種目でメダルの期待もかかる。
 「(賞金は)全部って言いたいところですけど(笑)。(五輪で競輪を)3カ月くらい休むんで、多少なりとも熊本に使っていただけるように(寄付を)考えたいと思います」
 故郷への支援を約束する中川が、今度はリオ五輪で被災地を元気づける。吉田敏、悲願ならず
 新田に合わされた深谷の脚色が鈍ると、吉田は松坂が遅れて空いた渡邉の後ろの3番手を確保。最終2角、そこからまくり上げたものの、スピードの乗り切っていた中川に離されて2着。タイトル奪取は次回、地元の高松宮記念杯以降に持ち越された。
 「(新田に)一番苦しいことをやられた。新田のイン粘りは想定していた。深谷には(内を)空けるなって言ったんですけど、声援で聞こえなかったみたいですね…。でも、深谷の気持ちは、僕に十分伝わってきたし頑張ってくれました。(中川が)見えた時にはギアが3枚くらい違っていた」
 新田の先行策で8年前のダービーV再現も十分だった地元の渡邉は3着。
 「タイトルというのは、獲るべき人が獲るもの。それが今回は中川だった。自分はキツかったけど、子どもたちにいいところを見せられたかと思います」
 愛知分断策から深谷をすくって主導権を握った新田は、深谷を突っ張り切ったものの中川のまくりまでは合わせ切れず6着。
 「流れのなか(でイン粘り)だったんですけど。そこからもスピードがあれば(深谷は)出ちゃうかなと思ったら…。攻めるつもりでやったんですけど、獲れなかったんでまた練習します」
 打鐘から巻き返すも新田に楽に合わせられ最終1角で力尽きた深谷は、大差のシンガリに肩を落とす。
 「新田さんに並ぶまでいってないし、やりたいレースができなかった…」

Race Playback

レース展開5
打鐘でも4中川は落ち着いてじっと9番手待機
レース展開7
大外をまくった4中川が、スピードを加速
レース展開9
中川が後続をちぎって、G1初Vのゴール

レース経過

誘導員 : 土屋裕二

 最内の渡邉が素早く飛び出すと、前に新田を迎え入れる。単騎の3選手はそれぞれ中団に納まり、前から新田―渡邉―松坂―中川―牛山―稲川―深谷―吉田―近藤の並びで周回を重ねる。
 青板3コーナーから動いた深谷は4コーナーで迷わず誘導員を下ろす。新田も簡単には車を下げず吉田の内で粘ると、1コーナー過ぎから深谷をすくって前に出る。外を迂回した松坂も3番手で続き、浮いた深谷を吉田が4番手に迎え入れたところで残り1周半の鐘が入る。中団に入った深谷は構えることなく3コーナーから再度仕掛けたが、新田も合わせてペースを上げるとホームから激しいつばぜり合いに。松坂がやや口が空いたのを見逃さなかった吉田は3番手に入って様子を見る。深谷は外に浮いたまま、これを見逃さなかった中川が最後方から深谷目掛けて一気に仕掛ける。気づいた吉田も2コーナーから合わせてまくるがスピードに乗ってしまった中川は後続を大きく引き離してG1初優勝。踏み直す新田とのモガき合いを制した吉田が2着、新田後位から吉田に切り替えた渡邉が3着に入った。

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