ラインの結束力でG1初制覇
2月、郡司浩平がS級S班返り咲きを決めた全日本選抜Vで、神奈川の先導役を務めたのも北井佑季だった。ビッグでの大舞台をはじめ、数々の連係を郡司と結実させてきた北井だったが、いままではすべて北井が前を務めてきた。2度目のG1ファイナル、北井は郡司の後ろを回る決意をした。その郡司が脇本雄太を突っ張り、赤板からグングンとペースを上げて風を切った。
「(郡司の)後ろに付かせてもらうのは初めてなんですけど、背中から熱い思いっていうのが感じられる走りでした。その郡司さんの気持ちを受け止めながら、後ろに付いていただいた(和田)真久留さんの気持ちを考えながらでした」
前の郡司だけではなかった。和田真久留が後位を固める頼れる神奈川トリオでの結束。高松宮記念杯3連覇のかかる古性優作を中心にまとまった強力な布陣の近畿勢を向こうにまわして、北井を連れた郡司が最終ホームを先頭で通過した。
「脇本さんが来るのが見えていて、外にフワッと浮いた状態になっていた。(新山がまくって来て)そこで包まれてもと思って(最終)1コーナー張りながら出かけていく感じになりました。郡司さん、真久留さんの思いだったり、それ以外の同県の仲間の思いだったりを感じながらでした」
2コーナー手前で番手まくりを打った北井は、神奈川、そして南関勢の思いを乗せて全力で踏み込む。和田が抜かりなく続いたが、3番手には単騎の小林泰正。さらに遅れを取っていた古性も、その後ろで優勝が狙える位置まで押し上げていた。
「ちょっと外線を外すような形になってしまって、真久留さんが内を締めてくれているのもわかった。隙があれば入ってくる選手も多い。ゴール線目がけてハンドルを投げて、ガシャンとなって良くわからなかったですけど。最後まで必死に走っただけでしたね。自分の力だけではもちろん獲れなかったですし、みんなの支えがあってです。なおかつ競輪界のお客さんからも盛り立ててもらっているのがわかった。そういう思いがあって、つかみ取れたのかなって思います」
ゴール前で北井の後ろの古性がバランスを崩して、先頭で駆け抜けた北井もゴール後に落車。初めてのG1制覇は、傷を負っての表彰式だった。
「(師匠の高木隆弘に)本当に感謝の思いというか、ピストに乗れないころから一から教えてもらった。師匠がいたからいまの人生があるので、獲って欲しいと思っていたのは師匠だと思いますし、その思いにまず一つ応えられて安心している。しっかり感謝の思いも伝えたい。今シリーズは準決で松井宏佑さん、決勝では郡司さんの番手で、(2走続けて)番手の走りになった。そういう熱い走りをしてもらったので、今後はいままで通りに自分が前で熱い走りで頑張りたい」
プロサッカー選手、Jリーガーから転身した北井は、31歳で競輪デビュー。師匠との二人三脚。20代のトップ選手も驚く練習量で瞬く間にビッグ戦線で存在感を見せるまでに成長を遂げた。郡司に次ぐ、南関地区から今年2人目のタイトルホルダーが誕生。初タイトルは番手で奪取も、風を切る本来の走りに迷いはない。
北井の後ろの和田真久留は、直線で外を追い込む。わずかにできたスペースで小林と古性がもつれる。和田も小林に押し込まれながらも2着。神奈川ワンツーを結実させた。
「北井さんが(新山を)張った。あの張りに付き合うと(小林)泰正が内を狙っていたので、締めていてキツかった。ただ、迷惑を掛けないで良かったです。要所、要所で内を狙っている選手が多かった。(2度目のG1決勝は)良かったです。前回は単騎だったけど、神奈川3車で(郡司)浩平が駆けているのを後ろで見ていて泣きそうになりました。泰正と古性が来ていたのはわかっていたし、2人に割られないようにでした」
脇本が後退して、切り替えざるを得なかった古性優作は、最終ホームで7番手。懸命にコースを探して、4コーナーでは4番手。高松宮記念杯3連覇をかけて、中割りを試みたが小林とからんで落滑入で態勢を崩しながらのゴールで3着。
「脇本さんがすごいレースをしてくれた。自分の力不足でした。脚が整わなかったですね。新山君がいなくなったら、外を踏みたかったが、脚にアタリがなかった。前に3人いて外は間に合わないと思って、優勝するならって思いっ切り内の厳しいコースをいきました。南(修二)さんのコースだし、北井さんにも申し訳なかった。走る前も力を出し切ることに集中できていて、3連覇を意識せずに走れた。自分のパフォーマンスを最大限出せた。郡司君、北井さんラインに力で負けた」