大怪我を乗り越えてG1初制覇
準決4着で最後のイスに滑り込んだファイナル。7番車だけに苦戦も覚悟をしていた石井貴子だったが、周回中は主導権が有力な奥井迪の後ろが転がり込んだ。
「初日、2日目と違って7番車からのスタートになってしまうので、きっと7番手回りになるんだろうなと思いながらでした。まさか奥井選手の後ろになるとは思ってなかった」
最後方のポジションではあったが、もう前にいる奥井の踏み出しに集中した。覚悟を決めた奥井は、打鐘2センターからスパート。出切った奥井の後位を巡り、最終1センターでは、内から山原さくら、吉村早耶香、石井の3車で併走。大外から内の2人を乗り越えた石井が、同期の奥井を追いかけた。
「(奥井の後ろは)そんなにスルリとはいけないと思っていた。ゴチャゴチャしても、絶対に勝負権があるところは渡さないというつもりで走っていました。3車併走になってしまって、たぶん後輪が接触してた感じがあった。でも、なんとか取り切れて良かったです」
3番手に取りついた尾崎睦がまくり追い込みで迫るが、石井はあくまで冷静。4コーナーで外に持ち出して、目いっぱい踏み込んだ。最後の力を振り絞って押し切りを図る奥井より、わずかに前に出たところがゴール。が、石井に優勝の確信はなかった。
「(奥井を)差せててほしいなと思いながら、(ゴール後に)ビジョンを見た。そしたら私のことを映してくれてるんだなあと思いながら、3コーナーくらいを回ったような記憶があります」
昨年新設されたガールズケイリンのG1。通算5回目のガールズG1が、石井にとってはG1初出場。19年にガールズケイリンフェスティバル、20年にはガールズドリームを制して、4度のグランプリ経験がある石井だったが、ここ数年は大きな怪我に泣かされていた。21年5月のガールズケイリンコレクションでの落車、昨年は練習中の落車で4カ月の離脱を余儀なくされて、不屈の石井ではさえ折れそうになった。
「骨が折れてもくっつくし大丈夫なんですけど。心が折れてしまって、もう走れないんじゃないかなって思った時もあった。またこんな日が来るなんて信じられない。(優勝は)本当に信じられなくて、何回もツネってるんですけど、ちょっと痛いので(夢ではなく)大丈夫そうです(笑)。怪我してから今日勝つまで大きな目標とかよりも、もっと前のその日にできることを精いっぱいやるっていうのをテーマに取り組んできた。この先もちょっとずつ、1個ずつやっていければいいなと思います」
G1制覇で20年以来のグランプリを決めた石井だが、そのスタイルを崩さない。目の前の課題を1つずつクリアして、その先にあるさらなる高みまで登り詰める。
先行策でのG1獲りにかけた奥井迪は、4分の1輪、交わされての2着。
「悔しいですね。出切ってからは余裕がなかった。いつも通りって思ったんですけど…。お客さんの声援がすごくて、そのお客さんに1着を届けられなかった。勝ちたかった。3日間バックを取って、それが自分の目標としてきたレース。それをやっての結果だし、受け止めるしかない。まだまだ頑張れってことですね。いろんなものが整っていたのに、私の脚力が足りなかった。(石井は)同期だし怪我をして苦労しているのもわかっているので、(石井の優勝には)祝福してあげたい。私は悔しい、それ(優勝)だけを狙っていたので」
前の2人との車間を詰めてまくり追い込んだ尾崎睦だったが3着まで。
「(周回中は)一番、理想の位置でした。奥井さんのカマシはわかっていたので、たぶんみんな飛び付き狙いだと思った。(自分は)ゴチャゴチャに巻き込まれないように、そこはいったん落ち着いてと。奥井さんが仕掛けて来たのが見えて、自分も踏み込んだ。昨日(2日目)、行くのが遅くて抜きっぱぐれているので、早めに行った。けど、結果、あそこでじゃなかったですね」