【コラム】~今の自分にできること~野口裕史 ~広島競輪場~

photo-24852
野口裕史
シリーズが進むにつれて表情の硬さも取れてきた
ここで立ち止まってはいられない

 3月7日(日)に最終日が行われた『瀬戸の王子杯争奪戦』in広島に参戦中の野口裕史(111期・千葉)が複雑な胸中を語ってくれた。2月24日に同県の仲間を事故で失ってから約一週間で迎えた今シリーズ。頭の中と気持ちを整理しようとすればするほどそれは叶わなかった。
 
 「きつかったですね。自分はこのまま競輪をやっていていいのだろうか、むしろやっていけるのかって…。苦しかったです。自分はそこまでメンタルが弱い方じゃないですけど、人が傷つくとか悲しむことに関してはちょっと弱いんだなって…。リュウに『一緒に頑張っていこうな』っていったばかりだったのに…」
 
 迎えた初日は自分の体が言うことを聞かず、別線にまくられて大敗を喫した。

 「レース前は吐きそうになるくらい緊張した。自分がもし変に動いてしまって転ばせてしまったらどうしようって…。普段なら考えないことが頭の中で…。集中しようとすればするほど体が硬くなった。落ち着け、落ち着けって思ったけど無理でした。人気になっていたしお客さんにも申し訳なかったです。でももしかしたらもう今までみたいにレースを走れないかもって思いました」

 レース後、そんな野口の異変に気づき声をかけたのは岩津裕介(87期・岡山)だった。

 「岩津さんとは普段から話しをするんですけど、レース後に『どうしたん? 調子でも悪いんか?』って。それで今の気持ちを話したんですよ。そうしたら岩津さんも過去に同じような経験があるって聞きました。内田(慶)さんでしたよね。岩津さんも苦しい時期があったみたいで。緊張や硬くなってしまうのは自転車に対する拒絶かもって言われました。でも『苦しいけどうちらは走って乗り越えていくしかない』って。ほかにも色々と話をしたんですけど、前を向いていかないとって思いました。このまま自分が弱っていったらリュウにも成清(貴之)さんにも申し訳ないって。プロとしてどうなんだって」

 そう簡単に心の傷は癒えないが一歩ずつ前へ進もうと決めた野口にも家族がいる。

 「最終日の今日、8日が娘の誕生日なんですよね。8歳になるんですけど名前は結萌(ゆめ)っていうんですけど。奥さんのためにも娘のためにも頑張っていかないとですよね。まだまだ色々な葛藤もありますけど、〝競輪〟から逃げちゃダメだなって思いました。でも今回は色々な人と話せて良かったです。自分と同じ気持ちの選手は、ほかにもいっぱいいると思うんですよね。リュウにもその人たちにも少しでもその気持ちが届けばって思って。まずは安全を第一に。自分の走りができるように頑張っていきたい。自分も街道メインの練習だったんですけど、これからはバンク練習に切り替える方向にして行こうと思っています」

 今回、成清龍之介さんの追悼になればと思い複雑な心境を語ってくれた野口裕史選手。この〝想い〟が龍之介さんに届くことを願って…。

細川和輝記者

2021年3月7日 18時10分

開催情報

ページトップへ